大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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稙田の名所・文化財 その2(大分市)

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 引き続き、稙田地区の文化財を紹介します。

 2 下桑本の堂様

 国道210号ホワイトロード)を通り、光吉からトキハわさだタウン方向に向かうと、左側に「ESSO」のガソリンスタンドがあります。その交叉点(信号機有)を左折し、一つ目の角をまた左折し、井路に沿うて進みます。下桑本部落に入りしばらく道なりに行くと、製材所で突き当りになりますのでこれを右折し、道なりに左カーブして製材所の敷地に沿うて回り込んでいきますと、左側に堂様があります(冒頭の写真です)。この辺りは道が狭いので、邪魔にならないところをさがして車をとめて下さい。

 境内にはたくさんの石造物が寄せられています。おそらく道路工事等でこちらに集められたものかと思われます。お地蔵様にお参りをしたらゆっくり見学をされるとよろしいかと思います。

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 こちらは、西国三十三ヶ所を巡拝し終えた紀念の塔です。塔身には「奉巡拝西国三十三所観世音菩薩供養塔」と彫られています。江戸時代の塔でありますから、近畿地方の西国三十三ヶ所ではなく、所謂「写し霊場」を巡拝して建立したものかもしれません。

 大分県には四国八十八ヶ所や西国三十三ヶ所の写し霊場や「寄せ四国」等の類が方々に見られます。これは、四国や近畿地方は遠方でやすやすとお参りができませんでしたので、近隣在郷のお寺や堂様を札所として四国八十八ヶ所や西国三十三ヶ所に見立てて、それを巡拝することで同じ霊験を期待したものです。中には一つの山に観音様やお弘法様などの石仏を点々と安置しまして、それを順繰りにお参りしていくルートを整備した小規模な霊場や、果ては堂様の境内等に全てを寄せ集めてただの一か所お参りするだけで巡拝するのと同じ霊験を期待する類のものまで、バリエーションが豊富です。大分や挾間周辺にも、写し霊場がありました。きっと、その霊場に関係する塔でしょう。

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 こちらの塔には「大乗妙典」とだけ彫られています。これはおそらく、一字一石塔の類でありましょう。

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 非常にどっしりとした印象を受ける石幢で、前記事にてご紹介しました蕨野の石幢と比べますと重厚さが際立っています。笠はきちんと稜線を出して角ばった感じに仕上げているのに対して、下の方は丸みを持たせたデザインになっており、その対比もおもしろいではありませんか。

 このように興味深い石造文化財が多々ございますけれども、ことさらに目を引くのが庚申塔です。

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青面金剛6臂、1猿、1鶏、2邪鬼、ショケラ

 大きくはありませんが、彫りの細かい立派な塔です。美しい舟形の塔身をかなり彫りくぼめて、金剛さんを厚肉に彫出しています。厳めしい表情の金剛さんは親しみやすさなどとは無縁の迫力でもって、悪霊を退散してくださるような力強さがあります。たっぷりとした衣紋のひだや手の指などの写実的な表現に注目してください。頭身比等みても不自然さがありません。弓や三叉戟等の武器、火焔光背はレリーフ状に刻んでいるのに、ここにほとんと傷みがないのは驚異的です。

 金剛さんの足許には、向かって左から鶏、邪鬼、猿となっています。真ん中の邪鬼はほとんど顔だけの表現です。この異様な姿は、まるで「まんが日本昔話」等に出てくるおばけのような雰囲気が感じられませんか。こんな怖い風貌の邪鬼をつつくかのように見える鶏は、金剛さんや邪鬼にくらべると非常に稚拙なデザインで、まるで幼子の落書きのような、なんともマヌケな姿です。猿も、長い腕をカーブさせて、全体を丸くデフォルマした表現となっており、これまた風変わりな表現でおもしろく感じました。

 往来の激しい大通りから僅かに入れば、このようにたくさんの石造文化財の残る堂様があります。稙田地区はほんとうにおもしろいところで、捜せばまだまだ、よいところがありそうです。

 

3 小野鶴八幡の庚申塔

 賀来神社から橋を渡り、小野鶴方面を目指します。右側に「雅建設工業」のプレハブがあり、その角を右に入ります(またはもう一つ先の角でもよい)。道は狭いが普通車でも通れます。すぐ、小野鶴八幡の鳥居に出ます。公民館に駐車させていただくとよいでしょう。 ※賀来からだと入口の目印(雅建設工業)がわかり易いが、反対からだと入口を通り過ぎないように注意してください。

 先に八幡様にお参りをして境内を散策すると、庚申塔が5基集められているところに行き当たるかと思います。やや外れの方ですので気を付けて捜してみてください。5基のうち2基が青面金剛の刻像塔で、残る3基は文字塔です。おそらく道路工事等でこちらに移されたものでしょう。写真が悪くわかりにくいと思いますが、個性的な塔です。

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青面金剛6臂、1猿、1鶏、邪鬼、ショケラ

 ずんぐりむっくりの、愛嬌のある金剛さんに目を奪われました。どんぐりまなこでギョロリと睨みをきかせているのに全く怖そうな感じがせず、可愛らしさすら感じられます。下桑本の庚申塔とくらべると、同じ青面金剛でも表現の方向性がまるで正反対です。非常に短足で、衣紋の裾からわずかに足先だけのぞかせています。異常に大きいショケラは、まるで乳呑児のようです!子をあやしているように見えませんか。下部は彫が浅く像容が不鮮明になっておりますが、猿や邪鬼も愛らしく、鶏もささやかで、かわいらしい表現です。

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青面金剛6臂、1猿、1鶏、ショケラ

 こちらは折損のあとが痛々しく、金剛さんのお顔の傷みがなんともお気の毒です。残った部分を見ますと、目尻はきりりと切れ長につり上がっていますが、さがり眉にはなんとなく優しさが感じられます。全体的に曲線を多用したデザインが見事で、殊に衣紋の裾のあたりなど、稚拙な表現ではありますが羽衣天女のような優美さがあります。ショケラはずいぶんデフォルメされ、もはや人のようには見えません。猿と鶏は線彫りで、子供の描いた絵のようなかわいらしさです。

 小野鶴の庚申塔は、幸いにも神社の境内にお祀りされているので安全に、気軽にお参りすることができます。八幡様にお参りされた際には、ぜひ庚申様にも手を合わせていただきたいと思います。

 

その3に続きます