大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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竹田津の名所・文化財(国見町) その2

 

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 引き続き、国見町大字西方寺の名所・文化財を紹介します。

 4 清浄光寺

 竹田津岡地区から西方寺への道路沿いで、わかりやすい場所です。道路と反対側の山すそに冒頭の写真の景色が見えたら、橋を渡ります。橋を渡ったらすぐ鳥居がありまして、その辺りが広くなっていますので農道入口にかからないように駐車します。清浄光寺は無住となっておりますが、地域の方がお世話をして下さっていますのでいつもきれいに掃除されています。たいへん立派な石垣が周囲の田園風景に溶け込み、この地域を象徴する風景といえましょう。この石垣には「力石」と申しまして、牛の頭を刻んだ石があるそうです。見落としてしまいましたので、次回お参りした際にはよく確認しようと思います。

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 大きくはありませんが、堂々とした立派な仁王さんが睨みをきかせています。いま、この屋根瓦を葺き替えています。この写真は葺き替え前のもので、特に傷みは目立ちませんけれども、新しい屋根瓦にかわればますます立派になることでしょう。

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 坪には、遠くからでもよく目立つたいへん立派なお弘法様と宝篋印塔が立っています。こちらは天台宗のお寺ですが、国東半島は昔からお弘法様の信仰がたいへん盛んであった土地柄ですので、宗派に関係なくお祀りされているのでしょう。お弘法様の石像は方々で見かけます。その中でもこちらの像は、大きさといい写実的な造形といい、近隣在郷では5本の指に入る秀作といえましょう。

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 見れば見るほど立派な塔です。先ほど宝篋印塔と申しましたが、伽藍塔とした方が適切かもしれません。仏像の安置された龕と、梵字を刻んだ部位とが重なり、たいへん豪華ではありまえんか。しかもこれだけ大きな塔でありながら細かい部分の彫りが緻密です。保存状態も良好で、碑文もよく残ります。造立にはかなりの費用がかかったことと思いますが、失礼ながらこの山間部の土地にあっては檀家さんもそう多いとは思えませんのに、いったいどのような経緯でこれだけの塔を造立されたのでしょう。維持管理も大変かと思います。ありがたくお参りをさせていただきました。

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 5 許波多社

 清浄光寺に付随する神社です。国東半島は神仏習合の土地でありましたので、お寺の奥の院として六所権現等を伴う事例が多々ありますが、神仏分離により権現の尊号に障りが生じて身濯神社などと改称している例も見られます。でもお寺と神社との位置関係は変わりませんので、運営は別となっていても実質的に両者は一体のものであるのです。このような事情から、こちらの許波多社は村の氏神様とのことですが、かつては清浄光寺と一体であったと推察されます。許波多(こばた)とは、きっと古幡と同じ意味でしょう。

 本堂右側から長い石段が延々と続いています。一部傷んでおりますが通行には支障のないレベルです。補修もなされているようですので、安全にお参りすることができます。

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 かなり登ります。下るときは気を付けましょう。

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 上がりついてすぐ左側に、五輪塔や宝篋印塔が残っています。神社の境内にこういった塔が当たり前のように残っているというところに、神仏習合の名残を感じます。

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 こちらは、寺子屋の先生のお墓とのことです。説明板はありませんでしたが、このように標柱を設置しているということは、きっと地域の方に親しまれた立派な先生であったのでしょう。

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 立派な造りのお社です。この一段下から左の方に進みますと、大師堂があります。あまり古い建物ではないように見えましたが、こちらにも石造仁王像が残っています。

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 清浄光寺入口の仁王さんと比べますとずんぐりとした体型で、愛嬌を感じます。光背などは省略し簡潔な表現になっております。下半身に注目してください。よく、2本脚でバランスをとるのが難しいのか衣紋の裾を地面につけて、3点支持にて立っている石造仁王像を見かけますが、こちらはそれすら諦めて、衣紋の裾を足下にまで広げて胴囲にて面でささえているではありませんか。なんという潔さ。個性的で素晴らしいと思います。

 

6 堂前の庚申塔

 こちらは清浄光寺のすぐ近くです。自動車をとめた鳥居付近からお寺の方を向いて左に伸びる農道(自動車通行可・簡易舗装)を道なりに行き、畦に沿うて直角に右に曲がり、山裾に行きついたところから車道を外れて正面に上がります。害獣除けのネットがありますが、左側が開け閉めできるようになっています。ネットを越えますと、庚申塔が見えてきます。

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 庚申石の類は見当たりません。1.5mほどの自然石に諸像を刻んだ庚申塔がただ1基、斜面に堂々と立っています。下の田んぼや向かいの集落を見晴らして、いつも見守ってくださる庚申様です。この塔は表現がたいへん個性的で、近隣では類を見ないものです。私は庚申塔に興味を持ってから、いつかこちらの塔を拝見したいと願い続けておりました。間違ってお寺右側の段々畑の跡地を上から下まで一面捜したりして、3回目の探訪にてようやく行き当たりました。実際に見つけたら、まったく難しい場所ではありませんで拍子抜けの感がありましたけれども、その感激たるや本年一の喜びといってもよいほどでした。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、邪鬼、2鬼面

 なんと珍妙な造形でしょうか!諸像が宙に浮いたかのように、大きな盤面に自由奔放に配されています。金剛さんのお顔は鼻が高く、口は異常に下の方に刻まれ、目は白目を剥いているように見えます。ふっくらとした頬の感じなど、まるで清少納言紫式部などのような、平安時代のお公家様の女性の絵を見るようではありませんか。たいへん高貴な感じのする輪郭です。髪型は、ツーブロックに刈り上げて上部にパンチパーマをかけたような雰囲気で、洒落ています!上の腕は直角に上に曲げて、まるで西洋の燭台のように見えます。中の腕は手の平が離れた拝み手。下の腕のみやや違和感のある位置から伸びています。体の前から生えているように見えてきませんか。

 金剛さんの両脇上部には鬼の顔だけが宙に浮いています!これは一体、どういう意図があるのでしょうか?童子は消えかかっていますが、ガッツポーズをしかけたような浮かれたポーズです。邪鬼もほとんど消えかかって、細かい表情や姿勢がよくわかりませんでした。金剛さんの脚が邪鬼を踏んでおらず、跨ぐようにして立っているように見えます。スカートのような衣紋の裾のところに邪鬼の顔があって、その左右に脚。なんと失礼な邪鬼でしょう、とんでもない行いです。猿は向かって右に1匹、左に2匹で、幼子の粘土細工のような稚拙な表現ですが、腰を少し曲げて口などを押えるポーズに愛嬌を感じます。憎らしい邪鬼とは大違い!鶏は猿の下に刻まれているのですがもともと彫りが浅かったのか、細かいところまではわかりませんでした。

 この塔は、所謂「異相庚申塔」と見なされているようです。異相庚申塔とは、庚申塔を隠れ蓑にしたキリシタンの信仰対象であったのではないかと考えられる石造物です。確かに、普通の庚申塔とは姿かたちがあまりにも異なります。特に主尊は、ほんとうに青面金剛なのか疑問を覚えました。

 こちらには標識や案内板がありませんので、地元の方や興味関心のある方しかお参りをされません。簡単にお参りができる場所ですので、清浄光寺にお参りをされる際に見学をされることをお勧めします。ちょっとよそにない庚申塔です。

 この庚申塔のあたりの字を「堂前」と申しまして、この字名はいかにもお寺や堂様ありきの地名のように感じます。許波多社の裏山は「堂山」といいます。『国見物語第五集』によりますと、堂山中腹には洞穴があるそうです。その洞穴は修験道に関係する岩屋であるのか、または全く別のものであるのかまでは記述がありませんでした。庚申塔を捜すのにあたりの斜面をかなり上の方まで上がり下りして、かつては一面の段々畑であったことがわかりました。耕作していた時代には岩屋に至る道も分かり易かったのかもしれませんが、今となっては道も乏しく、探し当てるのは容易なことではなさそうです。