大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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西椎屋の滝周辺の名所(院内町・玖珠町)

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 西椎屋(にししや)の滝周辺は「椎屋耶馬溪」のうちにて、断崖絶壁の荒々しい岩山に青葉やもみじの映える景勝地としてその名を馳せてまいりましたが、この地域はすこぶる交通不便でした。ところが近年は西椎屋道路の改良著しく、しかも秋葉様の山あたりの風景を「宇佐のマチュピチュ」として大いに売り出したこともありまして観光の方が盛んに訪れるようになっています。マチュピチュ以外にも名所旧跡・景勝地が数多くございますので、今回はその一部を紹介します。

 

 1 西椎屋神社

  院内市街地より国道326号を南下し、道なりに行きます。余谷(あまりだに)への分岐を過ぎますと長い長い登り坂(西椎屋道路)にかかり、断崖を斜めに横切るようにして玖珠町日出生(ひじゅう)地区方面を目指します。かつては温見(ぬくみ)あたりから先は等高線に沿うように谷の奥に回り込んでは戻ってくるような曲がりくねった狭路にて、やっとこさで登りました。和田平(わだひら)のトンネルを抜けるとほっとしたものです。今は道幅が広くなり、谷には橋が架かかり急カーブがなくなりましたので安心して通行できます。この改良はほんに画期的なことでございまして、宇佐から玖珠への交通が飛躍的に改善されました。

 素晴らしく快適になった西椎屋道路を登っていくと、左手に秋葉様の山が見えてきます。この風景を「宇佐のマチュピチュ」と申しまして、案内看板のある十字路を右折しますと旧道上に説明版や駐車スペースが整備されています。西椎屋神社に行くときは、その十字路を左折します。急坂を崖下まで下りますと西椎屋の集落で、20軒程度の屋敷が身を寄せ合うようにして典型的な塊村の体をなしております。集落内を道なりに行き、大龍寺前を右に曲がり、そのまま奥まで行くと正面に大銀杏が見えてきます。ここが西椎屋神社です。

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 西椎屋神社の呼称から、村(西椎屋)の鎮守様であることがわかります。参道脇に「合社記念」の立派な碑が見えます。この「合社」は明治以降、政府のお達しにより全国的に行われました。山神社、貴船様、愛宕様、天神様、善神王様、お稲荷様など地域のあちこちに点在していた小さな神社の石祠を、中心的な神社に移したものです。神社の境内の隅にいろいろな石祠が集められているのを見かけたことのある方も多いのではないでしょうか。これは小さな神社の維持管理という面ではよさそうな気もいたしますが、その流れの中で実際には数々の不都合が生じたところが甚だ多かったそうです。それと申しますのも、この「合社」は必ずしも村(集落)単位でなされたものではなく、複数の集落にまたがって行われることも多かったのです。そうなりますと祭典の執り行いですとか、またはその神社に付随する資産(山林や積み立てたお金など)の扱いをどうするのかという問題が生じますがこれはなかなか折り合いがつきませんで、神様を別の神社に移してただ拝殿が残るだけになった元の神社でお祭りを続けたり、または数年を経て元の神社に石祠を戻すというような事例もありました。

 しかし西椎屋神社につきましては、西椎屋が隣村から離れて地理的に孤立しておりますので上記の問題は生じなかったのではないかと思います。おそらく集落内の祠などをこの神社に移すといった程度の合社であったことでしょう。

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 根回りは30mにもおよび、樹齢なんと1300年と言われております。大正14年に落雷を受け幹の一部がやられてしまいましたが幸いにも枯れることなく命脈を保っており、見事な樹形でございます。この銀杏の枝の付け根にあるこぶを「乳こぶ」と申しまして、昔は母乳の出ない方のお参りが絶えませんで、近隣在郷の信仰を集めておりました。銀杏の葉が色づく時季は言うに及ばず、春先に薄緑の葉がつき始めることもほんによいものです。

 こちらから来鉢(くばち)に下る道もありますが離合ができませんので、お参りをしたら西椎屋道路まで戻った方がよいでしょう。

 

2 西椎屋の滝

 西椎屋道路を玖珠方面に進み、田所の集落を過ぎると玖珠町に入ります。滝の看板に従って左折し、日出生(ひじゅう)ダムを右に見て奥に進んだところが西椎屋の滝の駐車場です。遊歩道を少し行くと観瀑台がありますが、こちらは滝の落て口と同程度の高さにて半ば見下ろすような格好になる上に、滝壺は見えません。全体を見たいときはここから長い長い階段を下りていきます。この階段はものすごい急傾斜で一段々々が高いので通行に注意を要します。かつては滝壺のすぐそばまで行けましたが道が崩れて、今は下の観瀑台で行き止まりです。

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 宇佐の三瀑の中でも最も落差のある滝で、80m以上に及びます。しかし現在の西椎屋の滝は、その実は日出生ダムの落て水なのです。写真には写っていませんが、今の滝の右側に明らかに滝の跡らしき地形があります。これが、昔の西椎屋の滝の跡です。今のように落て口付近が細くなっておらずもう少し巾がありましたし、水量も多く、下の観瀑台に立ちますと飛沫でずぶ濡れになるほどのものすごさでございました。それを知らいで今の滝を見ますとヤレ見事な滝だと感心されること請け合いですが、昔の滝を御存じの方が今の滝をご覧になれば異口同音に景観が損なわれたと言われます。

 名瀑といわれた滝であってもダムや発電所、堰などで景観を損なわれたところがいくつかございます。大分県では西椎屋の滝のほかに、魚住の滝、沈堕の滝、白水の滝がそれにあたります。魚住の滝に至りましてはよほど増水したときでなければほとんど涸れ滝の姿でございました。沈堕の滝も、平成10年頃に修景がなされるまでは長らく涸れていました。それを思えば西椎屋の滝は、ダムの落て水を滝に見替えの配慮がなされているだけでもありがたいものです。昔の滝口から水を落とすのは、何らかの障りがあるのでしょう。それでも、生きているうちに1度だけでもよいので、あの昔の西椎屋を見てみたやなあと願わずにはいられません。それほど見事な滝でした。

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 西椎屋の滝付近から見た椎屋耶馬溪の大渓谷です。曇り空であまりよい写真ではありませんが、秋の夕方に訪れますとそれは見事な風景です。いちめんが金色に輝くとき、鳥になってこの中空を飛ぶことができたらどんなに素晴らしいことでしょう。また、駐車場から上の観瀑台までの短い遊歩道の両側の雑木林も、秋の夕陽に映えます。ただし遊歩道は下の観瀑台で袋小路になっておりますので、戻りは長い長い急階段を頑張って登るしかありません。その途中で暗くなるとたいへん危険ですから、もし夕方にこちらを訪れる場合には上の観瀑台までにしておいた方がよいでしょう。

 

3 カラ滝

 玖珠町日出生は小川内にある夫婦滝で、有名な観光地ではありませんが宇佐の三瀑に比肩するほど見事な滝です。西椎屋の滝と目と鼻の先ですのに地形急峻のために大回りをしなければたどり着けません。探訪される場合は地元の方の邪魔にならないように、農繁期を避けた方がよいでしょう。

 西椎屋の滝から国道に戻ったら、玖珠方面に行きます。しばらく道なりに行き青看板のある三叉路を「日出生本村」方面に左折します。集落の中ほどの分岐は左にとり、橋を渡ります(小学校方面へ)。田んぼの中を行くと、そのうち緩やかな登り坂になり田んぼから離れます。田んぼから離れて一つ目の二股を右にとりますと、いよいよ曲がりくねった山道です。ずっと一本道で、久しぶりに田んぼが見えてきましたらその田んぼの手前を左折します。

 普通自動車がやっと通る程度の、狭い九十九折を下るとほんの数軒の集落があります。小川内(おがわうち)に着きました。集落を通り過ぎて道なりに下りますと左側が段々畑になっていて、その奥の方に滝が見えます。
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 写真中央に見えているのがカラ滝です。今から、滝壺を目指します。いったん坂道を下りきってしまい、袋小路の手前で自動車を転回して戻ってきます。途中、路肩に1台程度であれば駐車できます。徒歩でこの写真の風景が見えるところを通り過ぎまして、さらに戻ります。いちばん上の田んぼを過ぎると、右方向に入っていく踏み分け道があります。この踏み分けを入ると古い水路に出まして、この水路に沿うて行くと滝壺に出られるのです。ただし途中は枯れ竹が折り重なったりしていますし、梯子段で段差を越えるところもありますので注意が必要です。

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 いかがですか。2条の滝が夫々違う形のカーブを描き、さても優美な姿を見せています。この水量たるやものすごく、辺りにはドンドドンドと水音が轟きます。水路の水口があるため滝壺の景観が一部損なわれているものの、落て口は自然のままのようです。写真に堰堤が写っています。これを渡れば滝の正面に行けますがものすごく滑ります!堰の切れ目が思いの外広く、飛び越えるように大股で渡らなければなりませんで、ここで滑りこけると大変です。無理に渡らなくても十分に楽しむことができます。

 こちらは観光地ではないので、遊歩道などは全く整備されていません。どなたにもお勧めできるような場所ではございませんが、これほど素晴らしい景勝地が等閑視されているのも惜しいような気がしまして掲載いたしました。

 

今回は以上です。椎屋耶馬溪の自然景勝地は、ほかにもたくさんございます。適当な写真を撮影できれば、また紹介します。