大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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馬門磨崖仏周辺の文化財(直入町)

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 今回は直入町大字長湯は馬門(まかど)にあります馬門磨崖仏(長湯線彫磨崖仏)・梵字石と、その近隣の文化財を紹介します。

 直入町は、長湯地区(大字長湯)と下竹田地区(大字上田北・下田北)に分かれています。今回紹介する馬門磨崖仏は長湯地区の端の方に位置しておりまして、そのすぐ先はもう下竹田地区です。一般に長湯と申しますと炭酸泉で有名な長湯温泉を思い浮かべることと思います。長湯地区はその中心部こそ賑やかな温泉街でありますが、そこから外れると黒岳・大船山の麓の丘陵地には田畑が広がり、久住高原と地続きにて一面が自然景勝地の、非常に風光明媚な土地でございます。この一帯に多様な石造文化財隠れキリシタンの史蹟、寄せ四国、立派な神社、滝など見るべきところが非常に多うございまして、まだその全容は掴みかねておるところでありますが、ひとまずそのごく一部を取り上げてみようというわけです。

 

1 馬門磨崖仏

 長湯温泉から県道30号を下竹田方面(庄内方面)に向かいますと、道路端にございます。標識がありすぐ分かりますので、詳しい道案内は省略します。駐車スペースも十分にあります。ちょうどこの史蹟を挟むようにして旧道と新道が通っています。旧道から石段で下がったところにあったものを、その反対側には新道の築堤がございますので、仏様の位置が窪地になってしまっていて、なんとなく窮屈で、お気の毒な感じがいたします。

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 案内板の文字が小さく画像では読みにくいと思われますので、全文を起こします。

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史跡案内
長湯(馬門)の線刻磨崖仏と自然石板碑
 高さ約二メートル、幅約六メートルの凝灰石の露出垂直壁面のほぼ中央に二躯の線刻磨崖仏がある。いずれも線彫りした五輪塔の中に線刻されているが、向って右が観世音菩薩坐像(六九・五センチ、水月観音白衣観音の類と見られている)左が金剛界大日如来坐像(五一・五センチ)である。観世音菩薩は蓮華座上に両腕を胸前に組み体は斜横に、顔は正面に、膝を立てるかに見られる姿は優美なやわらかさが現わされている。左の大日如来像は、宝冠を頂き智拳印を結んだ深みのある姿である。
 これらの彫像の向って右側には、自然石に梵字を蓮華座の上に線刻した板碑二基がある。右がキリーク(阿弥陀如来)、左がバク(釈迦如来)を線刻したものである。
 線刻像と自然石板碑の関係は明らかではないが両者共、室町時代の作とみられている。
 昭和三十四年三月大分県史跡に指定された。
直入町直入町観光協会

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 冒頭の写真の右の方に写っているのが、自然石板碑2基です。線彫りですが蓮華座や梵字はよくわかります。

 

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 写真の左の方に、線彫りの五輪塔とその中の仏様がうっすらと見えますが、わかりにくいと思います。実物を見ても、説明版がなければわかりませんでした。その右側にはごく小さな、浮き彫りになった仏様が一体刻まれています。こちらは、「線彫りの五輪塔の中に線彫りされた仏様」とは別の仏像で、案内板には言及のない像と思われます。

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 道路から石段を下がるところの左側にも、このような浮き彫りの仏様が見られました。こちらも、説明版では言及されていません。

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 壁面の前には五輪塔等が安置されています。全体的に、傷みが進んでいるように見受けられました。線彫りでありますので、光線の加減もあるかと思いますが非常に分かりにくく、詳しく解説された説明版のありがたさを感じます。

 

2 馬門の尺間様

 磨崖仏のすぐ近くに神社の参道がございます。登れば馬門の尺間様で、生目様等も合祀されているようです。

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 そう長い参道ではありませんけれども、石段がずいぶん傷んでいます。緩んだ石段というのは恐ろしいものです。通行の際に踏んだが最後、その段が崩れてしまっては大怪我を免れません。お参りは諦めて、遥拝にとどめました。

 

3 馬門の道路端の仏様

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 磨崖仏から僅かに長湯方面にまいりますと、道路左側の法面に龕をこしらえて石仏が安置されています。不整形の石板に浮き彫りにされた仏様は、細かいところまでよく行き届いた彫りで全体のバランスもよく、なかなかのお姿でございます。磨崖仏の断石のようにも見えましたが、詳細は不明です。道路の拡幅に伴い、新たに安置し直されたものと思われます。道が狭かった頃も龕の中に安置されていたのでしょうか、それとも石板が崖にめり込むように嵌まっていたのでしょうか。

 説明版等がなく由来は分かりませんでしたが、今なお近隣の方の信仰が続いていることが見てとれました。ちょうど道路端にございまして、拡幅された道をスピードを出して通る車も多うございますから、通りがかりにでもお参りをして交通安全をお願いされてはいかがでしょう。道中の安全、交通安全をお願いして、わたしたちも気を付けたいものです。

 

4 馬門の庚申塔

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 前項で紹介した仏様の辺りから田んぼの向こう側の道を見ますと、遠目に庚申様が目に入ります。馬門磨崖仏から僅かに長湯方面に行きすぐ右折、直後を左折して進めば道路の右側です。すぐわかると思います。直入地方の庚申塔はほとんどが猿田彦の文字塔なのですが、こちらは当地方においては珍しいことに青面金剛の刻像塔で、その造形が非常に立派です。磨崖仏をお参り・見学される際には、ぜひこちらの庚申様にも立ち寄ってください。

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青面金剛6臂、1猿、1鶏、邪鬼、ショケラ

 まず、彩色がよく残っていることに驚かされます。造立年は不明ですが、この彩色は造立当初のものというより、おそらく待ち上げか大待ち上げの際に着色しなおされたものでありましょう。国東半島では昔「庚申様は赤が好き」などと申しまして、盛んに赤い彩色を施しておりました。遠く離れた直入郡のこの地においても、そのような伝承があったのでしょうか。それとも、単に赤い顔料が手に入り易かったからでしょうか。経緯は不明です。よく見ますと一面を赤くするのではなく、主尊の衣紋と体をよく区別して、衣紋のみ赤くしているなど、なかなか手の込んだ彩色ではありませんか。

 主尊のお顔を見ますと、ずいぶん怖い形相であります。鬢のところから豊かな髪を逆立てて、まるで獅子のたてがみのような雰囲気で迫力満点、強そうな雰囲気が感じられましょう。6本の腕の形や指先、弓や宝珠などの持ち物、さらに衣紋と腕の重なりなど何もかもが非常に写実的な表現であり、技巧的にかなりすぐれた石工さんによるものと推察されます。惜しむらくは主尊の下半身にあたるところの破損です。すんでのところで、ショケラは破損を免れています。邪鬼は四つん這いになり、主尊に踏まれて観念しているようです。鶏は赤い彩色も豊かに、まるで孔雀のような鮮やかさでございます。その優美な姿に対して、猿の間抜けなポーズが面白いではありませんか。

 こちらの庚申講の現状は不明ですが、この塔については今なお近隣の方の信仰が続いているように見受けられました。基壇を立派にこしらえるばかりか覆い屋まで設けて、至れり尽くせりです。

 

5 冬田の宝篋印塔

 庚申塔の前の道を磨崖仏とは反対方向に進んでいきますと、道端に案内板が立っています。車は邪魔にならないように路肩ぎりぎりに停めるしかありません。

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 こちらも詳しい説明が書かれており助かります。この看板で見落としてはいけないのが、「これより40m」の右に書かれた矢印です。一見して分かりにくいのですがこれは、この看板の位置から宝篋印塔のとこまでの進み方です。ヤマ勘で進んでもそう難しくはありませんが一本道の参道ではないので、この矢印の形を覚えてだいたいのイメージを頭に入れておくと行きやすいでしょう。

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 この坂道を上がって平坦になったら左に折れて、草の生えたところを左奥にまいりますと右側の田んぼの端に宝篋印塔が立っています。田植の頃に行くとなかなかの風情がありますけれども、夏には草が茂って通りにくくなります。稲刈りの頃もよいと思います。

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 このように田んぼのすぐ横に立っています。どうしてこんなところに立派な宝篋印塔が立っているのでしょうか。説明版には塔自体の解説は詳しく書かれているものの、この塔の由来については言及されていませんでした。笠から上と塔身から下の後家合わせとのことです。一見しただけではそれと分からないほど、違和感のない姿でしっかりと立っています。塔単独で見てもなかなか立派なものですし、立地もよいので、近くを通る際にはちょっと立ち寄って見学されてはいかがでしょうか。

 

今回は以上です。馬門磨崖仏のすぐ近くの名所旧跡・文化財を紹介しました。天気がよければ馬門磨崖仏のところに車を置いて、歩いて散策するのもよいと思います。