大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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吉野の名所・文化財 その1(大分市)

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 今回は大分市吉野地区にあります文化財を紹介します。吉野は戸次と中臼杵の中間に位置しておりまして、市街地の喧騒から離れて、のどかな田園風景の広がる地域です。こちらは大分市に所属しておりますけれどもその文化圏は、旧来の盆踊りの特徴から、どちらかといえば臼杵寄りと言えそうです。それでも近年は道路の改良が著しく、特に県道206号のバイパス開通により明野方面への交通が飛躍的に改善されました。

 さて、吉野といえば何といっても梅の花です。春先には梅ノ木天満社の吉野梅園がたいへん賑わいます。でも、決してそれだけではありません。最近、吉野地区を少しだけですが探訪しまして、石造文化財のすばらしさに感激しました。それで、ひとまず写真のある分だけをこちらに紹介いたします。

 

1 堂山の石塔群

 まず、大字杉原(すぎばる)は字堂山(どうやま)にございます石塔群からまいります。こちらには非常に立派な宝篋印塔や多層塔が複数残るほか珍しい石仏(愛染明王)もございまして、興味関心のある方にはぜひお勧めしたいところです。標識がありますので特に迷うところはありませんが、簡単に道順を説明します。

  ファミリーマート梅ヶ丘店の前の道路を吉野梅園方面にまいりますと、道路左側に「堂山石塔群」の標識がありますので、それに従って左折します。道なりに行くと、道路端に弘法様が並んでいます。

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 このお弘法様の後ろに、五十四番と書かれた白い標柱が立っています。このように札所の番号のついた仏様が吉野地区内に点在しています。お四国さんの写し霊場か、または千人参りの札所でありましょう。

 さて堂山の石塔群に行くには、こちらの弘法様を目印にまた左折します。ここから先はちょっと不安になるような道幅で、途中より舗装も傷んできています。軽自動車がやっとの道ですので、心配な方はこの近くの邪魔にならないところに停めて歩いて行った方がよいでしょう。道なりに奥に行き、向かいの小山の麓に着きましたら二股になっています。左は車の通らない登り坂、右は車の通る幅のあるなだらかな道です。ここを右にとって進みますと、石塔群に到着します(冒頭の写真)。

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 境内に入ってすぐ左側にある五重塔です。少し高い位置に立っていますので、いよいよ迫力が増す気がいたします。立派な塔ではありませんか。その右側に見えます板碑型の塔は庚申塔(文字塔)のような気もしましたが、風化と地衣類の侵蝕で銘が全く読めませんでしたので正体不明です。

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 宝篋印塔もほとんど傷みがなく、その立ち姿は完璧と言えましょう。その右奥の四重塔も、宝篋印塔と見比べますとささやかな雰囲気ではありますが、それ単体で見ますとなかなかのものです。

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 石段横の五重塔もなかなかのもので、保存状態の良さに驚嘆いたしました。県内には、近隣で申しますと野津町水地の九重塔のほか、佐伯市上岡の十三重塔、大田村の五重塔国東町吉木の九重塔など、立派な多層塔がいくつも残っています。これらに比べても決して引けを取らない立派な塔です。

 塔を見学して、石段を上がって上の仏様にお参りをしました。こちらの石仏がまた素晴らしい造形でした。

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 石の戸は開け放たれています。破風のところに「愛染宮」と刻まれています。こちらは愛染明王様だとわかりました。愛染様の石仏はあまり見かけないような気がします。

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 一見して庚申様(青面金剛)と見間違えそうなお姿です。豊かな厚肉彫りにて表現されたその立ち姿がたいへん優美で、ゆったりとした曲線に見惚れてしまいました。線香立ての前面の彫刻もすてきです。愛染明王様にお参りをすると、縁結びや家庭円満の霊験があるそうです。

 それにしても集落から離れた里山の麓に、どうしてこんなに立派な塔や石仏が並んでいるのでしょう。堂山の地名から、標識を見た段階では堂様があるのかなとも思っていたのですが、実際に訪れてみますとこれは堂様というよりは伽藍跡ではないかと思い至りました。由来が書かれた説明版が見当たりませんでしたので、詳細はわかりません。

 

2 奥の庚申塔(辻)

  堂山から元の道に返って左折し(ファミリーマート梅ヶ丘店から見ると直進)、道なりに行き県道25号との交叉点を直進、中央線のない道を進みます。道なりに行くと、辻の左奥に石造物が並んでいます。こちらは大字奥で、小字名がわかりませんでしたので仮に「奥の庚申塔(辻)」としました。

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 集落の中にありますので近所の方のお参りがあるのでしょう、きれいに手入れされています。右側の御室の中に庚申様が安置されています。

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 なんと珍妙な造形でありましょうか。目が釘付けになりました。詳しく見てみましょう。

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青面金剛6臂(三眼!)、2猿、2鶏、ショケラ、2髑髏!

 御室の天井を見てください、塔のサイズが合わなかったためか一部を削って、無理やり中に収めています。まず目につくのは何と言っても主尊の御髪です。なんと縦長!なんとボリューミーなことでありましょう。その髪の生え際の上に何かが刻まれています。よく見ますと主尊と同じような髪型の髑髏でした。髑髏なのに髪型というのも変な感じがしますが、確かに髪が生えています。そして大きく立派な鼻の真上にも目が1つあって、3つ眼のお顔です。耳は邪馬台国の男性のイラストで見かける髪型のように縦長で、なんとも迫力のあるお顔ではありませんか。また、指の握りはどの腕も写実的でありますのに、宝珠を頂く手のみ上向きに目いっぱい無理な形で開いて、ちょっと手には見えない造形になっているのも見逃せません。体前に回した腕の間にはもう1つの髑髏。ショケラのお腹がポコンと出ているのもかわいらしうございます。上部は素晴らしい保存状態でありますのに、鶏と猿の部分の傷みが残念です。でも、この次の項で紹介する庚申塔と全体の造形がほとんど同じでありますから、鶏と猿についてはそちらで確認することにいたしましょう。

 何もかも個性的で、しかも主尊の姿が碑面いっぱいに大きく広がった、たいへん堂々とした立派な塔でございます。銘が見当たりませんで造立年がわからなかったのが残念です。道路端ですぐ目に入る塔でありますから、興味関心のある方にはぜひお参り・見学をしていただきたいと思います。近隣在郷でも類を見ない個性と工夫に富んだデザインは、単に石造美術品としての価値のみを見ても大なるところがありましょう。

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 並びのお弘法様は、帽子やおちょうちょが新しく、そう遠くないときに交換されているように見えました。もしかしたらお接待のときに新しくされているのかもしれません。 吉野地区ではお接待が続いているのかどうかわかりませんが、別府から国東方面にかけては今年もほぼ全滅でした。来年こそはあの赤い幟が立つ春であってほしいものです。

 

3 奥の庚申塔(坂道)

  こちらも同じ前項と同じく大字奥で、小字名がわかりませんでした。それで、坂道の途中にありますので「奥の庚申塔(坂道)」と仮称いたします。前項の庚申塔のある辻を直進して家並みが途切れると、下り坂になります。やや急な左カーブ(右側にカーブミラーあり)を曲がった直後、左側の崖の中腹に庚申塔が立っています。たいへん見落としやすいところです。下ってしまえば少し広くなっているところがあるので車をとめて、坂道を歩いて戻りながら捜した方が分かり易いでしょう。

 塔は道路から見上げる位置の狭い岩棚にあります。そこまで上がる通路がつけられていますが、幅がたいへん狭く、特に春から秋にかけては草が茂って通路の端が分かりにくいので転落に注意を要します。

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青面金剛6臂(三眼!)、2猿、2鶏、ショケラ、2髑髏!

 辻の庚申塔とそっくりそのまま、まったく同じデザインです。塔上部の破損が立派な御髪にかかっているのが惜しまれますが、それ以外のところは辻の塔よりもさらに良好な状態を保っています。雨ざらしになっていますのに、驚異的な保存状態ではありませんか。しかも赤色のみならで、白(宝珠など)、黒(鶏の尾羽など)と3色も使って見事に彩色を施しており、それがまたよう残っています。お見事というよりほかありません。

 諸像の特徴は辻の庚申様でだいたい申した通りでありますのでいちいちは記しませんが、ショケラ・猿・鶏についてはこちらの方がうんと分かりようございます。ショケラのかわいらしい姿を見てください、髪を掴まれながらも穏やかなお顔で、主尊に寄りそうような姿勢です。

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  辻の庚申塔ではたいへん見えにくくなっていた鶏と猿もこの通り。鶏は尾羽を繰ろで彩色し、それ以外の羽は白い点描でもって細かい部分まで上手に表現しています。つぶらな瞳がチャーミング。猿も、おどけた雰囲気がかわいらしくて、特に向かって左の「言わざる」の方はハッとした感じでこちらを見ているのが何ともおもしろいではありませんか。これらの彩色・表情の雰囲気などは造立当初のものではなく待ち上げの際に補ったものかと思われますが、とても丁寧な仕上げで見事なものです。この部分は塔のすぐ前まで上がらないとわかりません。

 

吉野には紹介したいところがまだ何か所かありますが、文字数が多くなりすぎましたのでここで一旦切ります。次回は奈津留の地蔵堂・庚申様、碇尾の磨崖仏、福良の観音堂・イボ地蔵様を紹介する予定です。