大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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松本の名所・文化財(竹田市)

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 先日、久しぶりに竹田市を訪れました。数多くの名所旧跡がある中で、主に石造文化財を見学して廻りまして、あらためてその質と量の豊富さに感激した次第でございます。今回はその中から、手始めに松本地区の名所・文化財を紹介します。

 松本地区(旧松本村)は穴井迫、君ヶ園、渡瀬、岩瀬、向山田の5ヶ村からなりまして、玉来と菅尾の中間に位置します。国道57号が通っておりますので通行される方は多うございますが、観光地としてはさほど著名なところはございません。しかし蛍に象徴される素晴らしい自然環境や数々の石造文化財は、この地域を象徴する景物でございます。殊に今回紹介いたします岩瀬の観音堂と柱立神社は、竹田名所のひとつといえましょう。

 

1 岩瀬の観音堂の石造物

 岩瀬の上手にございます観音堂の境内には多種多様な石造物がございまして、参道入口の説明版(冒頭の写真)にはその代表として宝塔、庚申塔、一字一石塔が記載されています。それ以外のものも含めまして、いずれ劣らぬ立派な造形であります。興味関心のおありの方には、ぜひお勧めしたい名所でございます。

 簡単に道順を説明します。竹田市街地から県道57号を菅生方面に参ります。道路右側にシグナルというパチンコ屋さんがあります。その角を右折し道なりに行きますと正面に防火水槽があります。ここを左折して、次の角を右折して家並みの中のアスファルト舗装の道を行きます。上り坂にかかり、途中より簡易舗装に変わります。左に鋭角に折り返しますといよいよ道が狭くなります。少し進むと、右側に冒頭の案内板が立っています。付近に車を停めるところはありませんので、防火水槽の辺りの邪魔にならないところに置いて歩いて訪れる方がよいでしょう。この道は市用方面に抜けられますが非常に狭く、軽自動車でなければ難渋すると思われます。通行はお勧めできません。

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 こちらが参道上り口です。昔は一直線に続いていたと思われる参道も、下の道路に自動車を通すためでしょうか、水路をはさんで直角に曲がっています。説明版の前に立っているのは県指定文化財の標柱です。

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 近隣の方の信仰が続いているようで、竹が伐採されており容易に通行できました。堂様には電気が点り、中はきれいに掃かれています。どなたでも自由にお参りできます。境内に上がり着いて驚きました。せいぜい5~6坪程度かと思われる狭い境内の外周に沿うて、多種多様な石造文化財がずらりと並んでいるのですが、想像以上にその数・種類が多かったのです。説明版によればこの地には満願寺というお寺があったそうですから、宝塔などはもとからこの場所に造立されたものでしょうが、道路工事や耕地整理などで近隣から寄せられたものもありましょう。

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 竹林に囲まれた境内は、晴天の日などは光の加減によりなかなかよい雰囲気がございます。秋の夕方など、いっそうよいでしょう。

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 一字一石塔です。「大乗妙典一字一石宝塔」の銘がございます。この種の塔を「宝塔」としているのは珍しい気がいたします。

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 庚申塔が並んでいます。こちらは上がり着いてすぐ左側にありますので、一番に目に入ります。

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 珍しい形状の庚申塔です。この塔は形のみならで銘もずいぶん風変りでありまして、「天帝勅使庚申尊」とあります。大仰な尊号でもって、庚申様の霊験をより高めようという意図があったのでしょう。

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 こちらの仏様は足のところを見てください。寸胴型の体型にてまるで達磨さんのような下半身でございますのに、不自然に足が前方に出ているのに違和感があります。個性的でおもしろいではありませんか。

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 こちらも個性的です。特に冠の両脇からさがったビラビラ簪のような部分の豪華さが見事でございますし、舟形の前に円を上下に重ねておりまして、それが蓮華座の下部の曲線とマッチして非常に優美な雰囲気を醸し出しております。

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 どちらも非常に細やかな彫りで、小ぶりながらも素晴らしい造形だと感じました。先ほどからいろいろな種類の造形で、その一つひとつの表現に工夫を凝らしています。

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 水子地蔵様です。

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 非常に恐ろしいお顔つきでございます。このように矩形に切り出した石の正面を楕円形にくぼめる手法の石仏はあまり見た覚えがありませんで、非常に珍しく感じました。

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 中央の石塔には「有縁無縁三界万霊」とあります(「ヨ」と「大」を上下に重ねた字は霊の異体字です)。この異体字を石塔類で見たのは初めてのような気がします。有縁無縁…家族や親類縁者、友人知人、隣組の人などに限らず、全く赤の他人と思うていても私達はどこかで繋がっています。三界万霊塔を造立した昔の方の心持ちを忘れないようにしたいものです。

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 左の塔には「一切如来陀羅尼塔」の銘がございます(陀は異体字)。こちらも一字一石塔か、または千部塔の類かと思われます。この経典の塔も、国東半島では見た記憶がございません。

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 こちらの庚申塔には非常にささやかな字体で「拝青面金剛」とあります。直入地方の庚申塔は、その大部分が文字塔です。

 

2 鶴原の庚申塔

 岩瀬の観音堂から国道方面に戻りまして、橋の直前を左折し川べりを行きます。左側に柱立神社の上り口があります。一旦通り過ぎて、すぐ突き当りになりますので右折します。路肩が広くなっているところに駐車しますと、そのすぐ横に庚申塔が立っています。

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 右の塔には「奉供養庚申塔」とあります。その上にある種字はおそらく「ウン」で、青面金剛をさしていると思われます。先ほど直入地方の庚申塔は文字塔がほとんどであると申しましたが、絵庚申(刻像塔)ほど目立たないけれども文字塔にも一つひとつ個性があることに気付かされます。それでは柱立神社にお参りしましょう。

 

3 柱立神社

 庚申塔の辺りに車をとめて、柱立神社の境内にあがります。参道は2つあります。石段、坂道、どちらも短いのですぐ着きます。坂道から上がれば境内まで車で行けそうですが道が狭く、ごく短距離ですので庚申塔のところから歩いた方がよいでしょう。

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 お社は小規模ながらも掃除が行き届いておりますし、境内の雑草も伸びておらずこざっぱりとしています。近隣の方がお世話をして下さっているのでしょう。左側の立岩がご神体のようです。「柱立」の由来でしょう。

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 近寄ってみますとその大きさに圧倒されます。このような立岩や磐座は古の巨石信仰の名残を今に伝えています。

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 説明板によればこちらの立岩は陽石として地域の方に信仰され、子授けや豊作を祈願されたとのことです。「鶴原のメンヒル」の呼称につきましては、現地の雰囲気から「鶴原の立岩」とか「鶴原の立石」とした方がよかったような気がします。

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 大木がものすごく斜めに育っています。

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今回は以上です。ここ最近はあちこちを探訪していて、その関係で更新のペースが遅くなっています。次回から直川村や宇目町庚申塔を紹介したいと思っています。