大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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深秣の名所めぐり その2(三光村)

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 前回、長谷寺奥の院まで紹介しました。今回は引き続き、長谷寺のお山めぐりを紹介します。奥の院背後の山をまわる小道に沿うて四国八十八所の写し霊場が開かれています。その霊場をめぐる道順は一部分かりにくいところがありますので、できるだけ詳しく書きます。写真が多いので記事を分割しようかとも思いますが、そうすると分かりにくくなりそうなので一気に掲載することにします。

 

2 長谷寺のお山めぐり

 前回、懸造の奥の院まで紹介しました。ここからお山めぐりをはじめるわけですが、先に道順を復習しておきます。

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 探訪時の道順を申します。地図の中央あたり「奥の院卍」のところからスタートして、左に行き「堂ノ前」「奥ノ洞」経由で「休憩所」なる展望地に上がりました。その後、「さりや洞」を経て「くぐり洞」の方向に行こうとしましたが、この道は通行困難であったので中央の尾根道を「堂ノ上」まで下りました。地図上では「堂ノ上」から右方向に道が分かれていますが、実際にはそれよりも少し下のところから分かれています。「阿弥陀岩」まで行きましたが、その先は難所であったので今回は諦めて、「こもり穴」「堀田平」をまわって奥の院に戻りました。今から、この道順に沿うて説明していきます。

 

(1)堂ノ前~奥ノ洞

 まず、奥の院の建物左側から急坂を上がります。最後は短いロープ場になっていますが気をつけて通れば問題ないレベルです。

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 ほどなく「堂ノ前」に上がり着きます。さっそくたくさんの仏様が並んでいます。ここから順々にお参りをしながら、岩壁に沿うて左に行きます。なお、この右側は奥の院の建物につながっていますが老朽化が著しく、立入・近接禁止になっています。

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 ほどなく落ち葉の積もった土の道になります。道幅がやや狭いところもありますが、特に危険はありません。左側は高い崖になっているので端に寄りすぎないようにして通ります。

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 蛇行しながらなだらかに上っていきます。やや荒れ気味の寂しい道で、昼なお暗い雰囲気に不安が増してまいりますが、点在する仏様のお姿に救われます。それは、仏様のありがたさは言うまでもなく、確かに道を間違わずに辿れているという確信が得られるためでもありましょう。

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 こちらの虚空蔵様は首が折れてしまっていました。何かのはずみに転落したことがあるのかもしれません。ほかにも、台座のみ残って上の仏様がなくなってしまったところも何度か見かけました。薄暗い道が続いていましたので、この辺りでようやく明るい雰囲気になってきてほっといたしました。

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 今まで仏様の密度がやや薄かったものを、こちらの岩陰にはたくさん寄り集まっています。ここまでは容易に辿ることができますので、山歩きが苦手な方もこの辺りまで巡拝されてはいかがでしょうか。逆に言いますとここから先はやや道が荒れ気味ですので、無理をせず引き返すのも選択肢のひとつです。

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 11面10臂の千手観音様です。石仏としての表現の制約により腕の数が少なくデフォルメされているわけですけれども、全体的にバランスが整い、彫りも丁寧な優秀作であると存じます。その優しそうなお顔や合掌した腕のあたり、袖の皺、横に並んだ手の平など、写実的な表現が素晴らしいではありませんか。千手観音様はすべての生き物をお助けくださる、ほんにありがたいお観音様でございます。

 さて、こちらの千手観音様を過ぎますと道順がやや分かりにくうございます。右に折り返して尾根に上がるのか、左に折れて谷筋を行くのか、または正面の斜面を上がるのか、一見して判断に迷いました。それと申しますのも、順当に行けば正面の斜面を上がりそうなものですが、その斜面を横切るようにごく低い石垣があるのです。その石垣に沿うて道があるような気もしまして左の方に行ってみましたが、明後日の方向に行くばかりなのでこれは違うと思い直しまして、石垣は無視して正面の坂を上がりました。下草が伸び、やや荒れ気味の坂道です。

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 この立札が見えてほっとしました。道標があるだけでもありがたいのですけれども、正直に申しますと、「あってほしいところにない」ことが多々ありました。それが、こちらには道標があるので行くべき道が分かります。ここから急斜面を右に上がって、右上に写っている道標のところまで行ったら左に上がり、岩壁の直下にとりつきます。

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 奥ノ洞の直下まできました。ここは短い鎖場になっています。適度な間隔で足をかける場所はありますが、鎖がなければ私には登れなかったと思います。鎖は新しく、今のところ強度も問題なさそうでしたからヤッコラサノサで軽々と登ることができました。

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 奥ノ洞に上がり着きました。ここは岩壁の半ばが片洞門状にえぐれたところで、たくさんの仏様が密集しています。それが、ご覧のように羊歯が繁殖しており仏様が隠れがちにて、残念に思いました。

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 このような状況で、一つひとつの拝観は諦めざるを得ませんでした。ダニの被害を懼れて羊歯の類にはあまり近寄りたくなかったのと、「長谷寺の境内林」として県指定の天然記念物になっている関係で、もしかしたら羊歯類の除去にも障りがあるのではと考えたので、除去を試みることも控えました。仏様が粗末にならないように、あまりはびこるようであれば対策が必要であると存じます。

 

(2)奥ノ洞~さりや洞

 奥ノ洞を過ぎた先も道を間違いやすく、注意を要します。等高線に沿うて奥に行くのではなく、右に折り返して急坂を半ば強引に登り、ちょうど奥ノ洞の真上の尾根に上がります。

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 尾根上に上がればこのような好展望が得られます。今までずっと木森の中を歩いてきて、どちらかというと薄暗い道中が続いていました。それが一気にこの展望ですから嬉しさも一入でございます。ちょうどこの付近は地図にあった「休憩所」として簡易的なベンチ等も整備されていますから、一休みするのに最適の場所です。

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 ここから尾根伝いに奥の方に道が続いているように見えましたが、間違いでした。下り口が分かりにくいと思います。「どの仏様も道の方を向いている」ことに気付くまで時間がかかりました。写真の仏様の前を行けば、鎖渡しの下り口が見えてきます。

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 鞍部に下って振り返った写真です。鎖が錆びています。今のところ強度に問題はないように見受けられましたが、あまりテンションをかけすぎない方がよさそうです。

 ここから先は「さりや洞」まで上り下りが少なく、気持ちの良い尾根道になります。

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 山桜の向こうには屋山(八面山)が見えます。ここから屋山まではほど近けれど、こちら側から登る道はありません。この先、二股になっているところを左に上がれば「展望台」へ、右に下れば「さりや洞」に至ります。先ほど好展望を十分に楽しみましたし、左の道は草が多かったので「さりや洞」を目指しました。

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 「さりや洞」へは、展望所の下を巻いて進みます。この奥山に仏様を運んで安置するのは、大昔のことですから並の苦労ではなかったことでしょう。本場の四国八十八所を巡拝するのが難しい地域の方のために、昔の方がこのお山めぐりのルートを整備して写し霊場を設けてくださったのです。それを思えば今までの難所の道もどうということはありません。ほんにありがたいことではありませんか。

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 「さりや洞」に着きました。こちらも「奥ノ洞」と同じく片洞門状になった岩陰にたくさんの仏様が並んでいます。「奥ノ洞」よりもずっと幅広です。植物がはびこっておらず、容易にお参りすることができました。

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 いかにも仏様をたくさん安置したくなるような地形です。それにしても「さりや」とはどのような意でしょうか。仮名書きにて推測が難しく、由来をつくづく考えてみましたけれどもどうしても考えつきません。

 

(3)さりや洞~阿弥陀

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 「さりや洞」の端まで来ますと、徐々に道幅が狭まってまいります。右側は高い崖になっていますから注意を要します。

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 とうとう古羅漢や競秀峰のお山めぐりを思い起こさせるような、鎖渡しの道になりました。でもこちらは、鎖を持たなくても問題ない程度の幅がありますから、古羅漢のそれと比べるとずっと容易に通れます。油断して落ちないように、念のために鎖を持って歩いた方がよいでしょう。

 この先で道が二股になっています。右は「堂の上」経由で奥の院付近まで下る尾根道、左は「くぐり岩」方面に抜ける道です。すべての仏様を巡拝したかったので、当然左を選びました。ところが道は乏しく、やっと歩ける程度の幅しかなく片側は崖で、おまけに谷筋にかけた木橋が腐って用をなさない状態です。その木橋をどうにか越したものの、行く先には道幅いちめんの藪と灌木でとても通れる状態ではありませんでした。今思えば鎖を伝って展望所まで登り、そこから迂回すれば「くぐり岩」まで抜けられたかもしれません。でも現地で道の荒れ様を見て、どう考えても上からの道も同様の状態であると思われましたので確かめることなく諦めました。ここから尾根道を下っていき、地図に表示されていた「堂の上」から分かれる道を辿って「阿弥陀岩」経由で反対回りに行けるところまで行き、また「堂の上」まで戻ればよいと考えたのです。

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 岩場に松という国東半島のような景観を楽しみつつ、尾根道を下っていきます。松の枝でやや通りにくいところもありました。この尾根道は新四国のルートから外れているので、仏様は見当たりません。

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 「堂ノ上」に着きました。この近くで久しぶりに仏様に出会いました。ということは、ここから下は四国八十八所のルートになっているということですから、この付近から下り方向に見て左に道が分かれているはずです。ところが左側はいちめんが下り勾配で、その下りはなには灌木が茂り、左に分かれているはずの道が全く分かりません。やむなく、道なりに尾根筋を進みます。

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 この岩尾根の半ばから左に折り返すようにして斜めに下っていく踏み跡がありました。本来の道筋ではないと思いますが、おそらく元々は「堂ノ上」から分かれていた道につながっていると考えてその道を下ってみました。

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 下りきったら、水平気味に進みます。荒れているものの、明らかに道の体をなしております。堂ノ上から下ってくるはずの道はとうとう分からないままです。はたしてこの道が正しいのかどうかも分からないまま等高線に沿うようにくねくねと進んでいきますと、ずいぶん久しぶりにあの白い道標を見かけました。正しい道(ただし反対回りですが)を辿っていることが分かりほっといたしました。そのうち、大きな岩が見えてきました。

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 阿弥陀岩の看板がついています。この大岩の上に阿弥陀様がおわしますので、そのように呼んだと思われます。この岩の横の急坂を、トラロープを伝うて登ります。足元がよう滑るのに辟易しました。

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 どうかしたはずみに転落してしまいそうな、不安定な立地の仏様でございます。実際にかやったことがあるのでしょう、光背を大きく打ち欠いています。ありがたくお参りをいたしました。

 

(4)阿弥陀岩~こもり穴

 阿弥陀岩から先の道順が分からず、困りました。左の方に行ってみましたが倒木と藪がひどくとても通れる状態ではありませんし、めざす「かさね岩」とは離れるばかりです。かといって右にも行けず、正面の岩場を上がるよりほかなさそうでした。

 さて、正面の岩場には鎖もロープもありません。登る分にはよけれど、この道を通って「さりや洞」に抜けるのは困難であることは分かっていますから、どこかで折り返してこの岩場を下るのは骨が折れそうでした。もし転んだら大怪我をしそうな場所です。せっかくの四国八十八所めぐりで怪我をしたら何のことかわかりません。逡巡しまして、結局あきらめました。

 さきほどの「堂ノ上」下の岩尾根まで後戻って奥の院方面に進みますと、正面と右の二股になっています。右に下ればほどなく奥の院で、その二股のところから奥の院の瓦屋根が見えました。まずは直進して「こもり穴」や「堀田平の石塔群」を見学します。

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 直進すれば椿の花がさかりで、ほんに気持ちのよい尾根道になりました。椿のかげには仏様がおわします。わたくしは桜よりも梅よりもなお、椿の花が大好きですので、ほんに嬉しくなりました。しばらく行くと右に「堀田平」への分岐がありますが無視して、ひとまず「こもり穴」を目指します。そのうち尾根筋から外れて、右側の谷を巻いていくことになります。道標がありますので下り口はすぐ分かります。

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 「こもり穴」に着きました。薬師様の後ろにUターンを指示する道標が立っています。

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 こちらが「こもり穴」の入口です。天井がずいぶん低かったので中には入りませんでした。驚くべきことに、この穴の入口にも仏様がおわします。「こもり穴」とは、修行のためにこもった穴であろうと推量しました。

 

(5)堀田平石塔群~堂ノ前

 こもり穴の仏様にお参りしたら、元来た道を後戻ります。

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 先ほど無視した道標を左折して「堀田平石塔群」へと下ります。ここからあっという間の距離です。

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 石塔群に着きました。茶壺型の塔身が美しい見事な宝塔がある一方で、一部壊れていたり後家合わせと思われるものもあります。ほかに板碑や角塔婆もありました。この傾斜地にいろいろな石塔が密集しており、壮観です。

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 右端に写っている宝塔は、この一帯のお塔の中でも特に立派です。石塔群は市の文化財に指定されています。説明板がないのが惜しまれます。ここから尾根伝いにさらに下っていくこともできそうでしたが、疲れていたので素直に来た道を戻りました。岩尾根のかかりの二股を左に折れて狭い通路を下れば奥の院横の「堂ノ横」に出ます。スタート地点とは反対側の「堂ノ前」です。これまでの道中で何度も道を見失い、右往左往しながらやっと戻ってくることができました。「くぐり洞」から「阿弥陀岩」のあいだを省いたので満願成就とはなりませんでしたけれども、達成感のようなものが湧いてまいりました。

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 正面の「針ノ穴」の立札から、左右に穴がほげています。左の穴は行き止まり、右の穴は写真右下に写っている一字一石塔の裏に抜けているようです。この一字一石塔の銘は「大乗妙典普門品一字一石塔」です。

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 フラッシュを焚いて「針の穴」を撮りました。実際は真っ暗闇です。匍匐前進をしてもつっかえてしまいそうな、狭い穴でした。

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 左に奥の院の建物が写っています。そのきわのところに、岩棚に上がる足がかりがありました。鎖が欲しいところですが、ありません。

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 四国八十八所もこちらで打ち止めです。怪我なく、無事に戻ってくることができました。これまでの道順をあらためて思い出しますと、みなさんにお勧めできるようなルートではありません。けれども安全に留意して、季節を選べば問題ないと思われます。自然探勝をかねて、昔の方の暮らしにも思いを馳せながら四国八十八所を巡拝すれば、きっと実りあるお山めぐりになることでしょう。

 

今回は以上です。記事を書きながら、やっぱり「さりや洞」から「展望台」に鎖で上がって「くぐり洞」への迂回路をさがしてみればよかった…と後悔しました。そうこうするうちに草が伸びて、山道の通行に難渋する季節になります。来年の春先にでももう一度挑戦してみようかと考えているところです。