大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

カテゴリから「索引」ページを開いてください。地域別にまとめています。

西安岐の庚申塔めぐり(安岐町) その2

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013645j:plain

 西安岐の庚申塔シリーズの続きです。今回は成久は西山の庚申塔・墓地の庚申塔、唐見の庚申塔、恵良の地蔵堂庚申塔を紹介します。道順が飛び飛びになりますので少し分かりにくいかもしれません。

 

2 成久西山の庚申塔

 安岐市街地から県道34号を安岐ダム方面に進みます。安岐川を跨ぐ橋の手前を左折して土手の道を行き、十字路を直進して崖際の急な坂道を上りますと、坂道の途中の右側、石灯籠と2基の庚申塔が並んでいます(冒頭の写真)。道路よりもやや高い位置にありますが、塔のそばまで簡単に上がることができます。この辺りは道幅が狭いので、どこか邪魔にならないところに車を停めて歩いて訪れる方がよいでしょう。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013657j:plain

青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 この塔は植物が絡みついておりますので、一見して細かい部分が分かりにくうございます。普段はこのような状態の塔を見かけたときには植物を除去しているのですが、この日は先を急いでいたのでついそのままにしてしまいました。粗末にならないように、除去すればよかったと後になって思っています。

 主尊はとても怖い目つきでありますが、団子鼻と盛り上がった頬、顎のラインなど全体的にむっちりとした感じで、何となく愛嬌も感じられます。猿は主尊の足元、半円柱状の台座のようなところにちらばらに刻まれておりまして、この部分は少し傷んできています。なぜかこのタイプの3猿は傷んでいることが多いような気がいたします。その両脇の鶏も影が薄くなり、どことなく寂しげな雰囲気が感じられました。享保9年、凡そ300年前の造立です。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021015047j:plain

青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 こちらの方がより状態がよく、細かいところまでよう分かりました。主尊は怖そうな雰囲気は感じられませんが、どっしりと強そうに見えます。寸詰まりの脚の太いことといったらどうでしょう。その両脇の童子がことさらに小そうございまして、主尊の迫力を強調しているかのようです。頭頂部に髷をこしらえて、両手を前に行儀よく打ち合わせています。猿と鶏は二階建ての部屋の中に仲良う収まっておりまして、窮屈な感じがいたします。猿の表現は形式的でありますものの、これはこれで可愛らしいではありませんか。享保6年、ちょうど300年前の塔です。近隣地域の景観の移り変わりや昔の方の暮らしなどに思いを馳せながら、300年という時間の長さを感じました。

 

3 成久上野の庚申塔

 西山からの近道はやや分かりにくいので、安岐中学校を起点に説明します。安岐中学校のところの交叉点から南安岐小学校方面に少し進みまして、右折して2車線の道路を蔦巻方面に上ります。道路右側に小さな墓地があり、その中に庚申塔が立っています。車は路肩ぎりぎりに寄せて停めるしかありません。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013708j:plain

青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 一見して西山の庚申塔のうち向かって左の塔とそっくりであることにすぐ気付きました。同じ石工さんによるものでしょう。岩質が異なるのか、こちらの方がより状態が良好です。こうして見てみますと主尊の額の広さが目立ちます。また、童子はこちらの方がヒョロリとした体形で、まるでこけし人形のように見えてまいります。猿と鶏のところは西山の塔とは異なるデザインになっております。3猿の収まった小部屋の左横に2羽の鶏が斜めに並んで刻まれています。普通、このようなデザインであれば小部屋の両側に鶏が配置されそうなところを、どうしてここだけ対称性を崩したのでしょうか。細かい点ではありますが、こういったところにもめいめいの個性がございまして、いろいろの塔を見比べますと興味関心がいよよ高まってまいります。

 

4 唐見の庚申塔

 安岐市街地から県道を安岐ダム方面に行き、老人保健施設しらさぎ(旧西安岐中学校跡地)の前を鋭角に右折して、旧県道を少しだけ市街地方面に進みます。すると道路左側、田んぼの先の山すそに墓地が見えますので、左折してその墓地への道を進みます。車を墓地手前の広場に駐車したら今来た道を歩いて戻り、右折して田んぼの間の農道を進みますと、行き止まりの竹藪に庚申塔が立っています。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013802j:plain

 農道の行き止まりから庚申様のところに上がるまでは僅かな距離です。そのままでも問題なく歩けるものを、落ち葉や枝等に足を撮られないようにコンクリートブロックを飛び石のように並べてくださっています。近隣の方の信仰が続いていることが分かります。

 一点、庚申様が唐見部落の方ではなく明後日の方向を向いて立っているのが気になりました。作の神のような霊験を期待したのであれば田んぼの方を向いて立っていそうなものを、よそを向いているということは、賽の神のような意味合いであるのでしょう。そうであれば、昔この場所にどこかに通じる小路があったのかもしれません。今では竹藪になっていて、その痕跡は分かりませんでした。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013806j:plain

青面金剛4臂、2童子、2猿、2鶏

 こちらも主尊と童子が、成久西山や墓地の庚申塔によう似ております。近距離にあって、同一の石工さんが関係していることが推察されます。でも、こちらの方が主損の上背が高いような気がいたします。それと申しますのも腕や脚が西山のそれに比べますとやや細く、炎髪の上端が尖っておりますので、すっきりとした印象が感じられたのでしょう。童子が左右でポーズを違えていて、特に向かって右の童子は主尊を畏れ数歩ひどって控えるような雰囲気がございます。

 さて、こちらの塔は主尊と童子が成久の庚申塔にそっくりでありますものを、下部はまるで異なります。そして主尊の足元から山型をなすように枠をこしらえて、その枠の斜めの線に捕まって猿がオイサオイサを登っているのがなんとも愉快ではありませんか。猿の木登りならぬ猿の山登りとでも言えそうな、さても滑稽なる表現でございます。オリジナリティに溢れたデザインで、石工さんのアイデアに感心いたしました。そしてその山形の枠の中では鶏が2話、仲良う向かい合うています。小屋の中で仲睦まじいつがいの鶏を、猿がのぞき見をしようとしているようにも見えてまいります。いろいろと想像してみるのも面白うございます。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013810j:plain

 斜めから見ますと塔身がずいぶん薄く、この状態でかやりもせで今まで状態を保っています。注連を張りお水をあげ、至れり尽くせりのお祀りであります。近隣の方の信仰が続いており管理が行き届いており、粗末にならずに維持されていますから、今後も現状を保つことでしょう。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013813j:plain

 墓地で見かけた六地蔵塔です。国東半島の墓地では、単体の六地蔵様が横並びになっているのが多い中で、このように六地蔵塔を安置している例は珍しいのではないでしょうか。

 

5 恵良の地蔵堂

 唐見の庚申塔から県道に戻り、安岐ダム方面に少し進みます。安岐中央公民館(西安岐小学校跡地)の手前を左折して、旧西安岐小のグラウンドに突き当たったら右折して道なりに進みます。田んぼの中を行き、正面左前の小山に沿うて直進すると左側に墓地があります。その隅に邪魔にならないように駐車して、いま来た道を歩いて戻り、山裾に沿うて右折して農道(車の通れる未舗装の道です)に入ります。僅かに進めば右側に地蔵堂への参道入口があります。ただの山道ではないかと不安になるような入口ですが、それらしい道がほかにないのですぐ分かると思います。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013819j:plain

 竹林の中の、気持ちのよい山道です。特に滑るところもなく安全に通れますが、雨の後はやめておいた方がよいかもしれません。登っていけば、右前方に神様の祠があります。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013821j:plain

 参道右側の祠です。このように立派な石垣をこしらえてお祀りしています。この祠の左からもう少し上がれば、ほどなく地蔵塔に到着します。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013823j:plain

 地蔵堂に着きました。お参りをいたしましょう。この堂様は、おそらく昔この場所にあった木造の堂様が傷んだか壊れたかで、このように造り替えたものと思われます。立派に屋根もこしらえて頑丈な造りになっていますので、仏様も粗末になることなく安心です。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013827j:plain

 参道を上がり着いた左側には庚申塔や石灯籠が立っています。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20211021013848j:plain

青面金剛4臂、2童子、2猿、2鶏

 塔身を大きく打ち欠いておりますが、諸像にかかっていないのが幸いです。こちらは、成久や唐見とは違うデザインの主尊です。お顔を見ますと眉も目もものすごくつり上がっておりますのに、口が少し開いていることもあってか可愛らしさすら感じられます。この口の開きはどうしたことでしょう、鼻が詰まっているのでしょうか。そして髪型はまるでお芥子かおかっぱか、青面金剛らしからぬ髪型でございます。

 鶏と猿は下部の帯状のところに仲良う並んでいます。ここはことさらに彫りくぼめておりますのに、鶏や猿は元々彫りが浅かったとみえて、まとわりつく植物の影響もありとても見えにくくなっていました。お地蔵様にお参りをされる際には、庚申様にも注目してみてください。

 

今回は以上です。唐見や恵良の庚申塔は、農繁期には近隣の方の迷惑にならないように、駐車場所に注意が必要です。時間があれば、安岐中央公民館に停めさせていただき歩いて廻るのもよいかもしれません。

この記事とは全く関係がない戯言ですが、昨今、「文化財をどう活用するか」のような文言を見聞きいたします。わたくしは、教育活動にしろ観光にしろ、文化財を「活用する」という言い回しにはどうも違和感を覚えます。