大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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小川の庚申塔巡り(本匠村)

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 本匠村大字小川の各集落にある庚申塔を紹介します。小半鍾乳洞あたりから銚子渓谷を目指していく道順で、順に辿っていくことにしましょう。

(1)屋敷ノ原の庚申塔

  国道10号から本匠村に入りまして、小半鍾乳洞を過ぎて県道を因尾方面に参ります。川に沿うて進み、左側にかかっている橋の欄干に「銚子の滝」と書かれた立派な看板がありますので、ここを左折します。しばらく人家が絶えます。川沿いに進んでいくと最初の集落(3軒ほどしかありません)を、屋敷ノ原(やしきのはる)と申します。

 1軒目のお宅の手前、右側に流れる川に沈み橋がかかっていますのでそれを渡ります。自動車は危険ですので、邪魔にならないところにとめて歩いて渡りましょう。ほどなく、左側に六地蔵さんがおわしまして、その左の方に庚申塔が並んでいます(冒頭の写真です)。

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青面金剛6臂、2鶏、3猿

 一列に並ぶ庚申塔の中で、青面金剛の刻像はこの塔のみです。なんと呑気な風貌でしょうか。両手で杓を持っているのか、または棍棒かもしれませんけれど、どっしりと構えています。そして髪型!まるでちょんまげを結っているかのようです。普通だったら童子が控えていそうな場所に大きめの鶏、その下段に猿という配置が風変りです。猿は1匹だけ仲間外れにされて、その間に文字が刻まれています。彩色もよく残っていますし、衣紋の表現や、金剛さんの足の指など丁寧な彫りで、秀作といえましょう。

 

(2)苣ノ木の庚申塔

 屋敷ノ原の次が岡という集落ですが、ここでは庚申塔が見つけられませんでした。道路から離れたところにあるのでしょう。岡を過ぎますと、直進が直川村、右折が銚子渓谷の三叉路があります。これを右折します。

 道なりに行き、最初の集落が苣ノ木(ちしゃのき)です。その手前、道路の右側に庚申塔があります。この塔は以前紹介しましたので、簡単に述べます。

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 後ろには文字塔がいくつも並んでいますが、藪に埋もれてしまっています。その前面に、立派な刻像塔が2基並んでいます。詳細は下記リンクにて説明いたしました。

苣ノ木の庚申塔(本匠村) - 大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

 

(3)番ノ原の庚申塔

 苣ノ木を過ぎて、次の集落を番ノ原(ばんのはる)といいます。集落の入口、右側に庚申塔などの石造物がたくさん寄せられています。目立つのですぐわかると思います。

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 庚申塔以外の、お地蔵様などの塔も集められています。後列は全部文字塔で、刻像の庚申塔は手前中央の2基です。やはり、文字塔よりも位が高い感じがいたします。大待ち上げ等で建立した、肝煎りの塔なのでしょうか?この2基を順番に、くわしく見てみましょう。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、ショケラ、邪鬼

 昔は笠が載っていたようです。また、どうも下部が折損しているような気がします。でも、そんなことは関係なく、とても立派な彫りに感銘を受けました。特に童子の衣紋が、たっぷりとした感じでなかなかのものではありませんか。異常に大きなショケラもかわいいし、シャカキで隠れていますが足元の邪鬼もまたおもしろいものです。

 右の塔、こんなに立派ですが、これにも増して立派なのが左の塔です!

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、2獅子

 どうですか!なんて立派な塔でしょうか。大きいし、細やかな表現が見事です。本匠村のたくさんの塔の中でも、1、2を争う塔ではと思います。金剛さんの異人風の顔立ちや髪型が、まるで西洋の彫刻のようなリアルさです。その衣紋は高級な感じで、体の前にて中を向いた腕の先のところには蝶結びの紐が見えます!これは、初めて見る表現です。腕の太さがまちまちなのも微笑ましい。童子は、右と左とで高さを違えています。左の童子など、畏れてややのけぞっているのも素晴らしい表現です。猿と鶏もすべて対称性を崩して配置し、すべてがいきいきとしています。まるで形式的なところがありません。そしてなんといっても、足元の獅子です!獅子の足をみると4本脚で、1匹のように見えます。でも、顔は2つありますから、これは2匹の獅子が並んでいると見てよいでしょう。たくさんの像を盤面いっぱいに、余すところなく配置しています。対称性を崩しながらもバランスがとれている、非常に高級なデザインです。笠も立派、彫りも丁寧で、かなりの腕前の石工さんによるものでしょう。

 

(4)岩屋の庚申塔

 番ノ原を過ぎ、道なりに行くと岩屋に入ります。岩屋はこの谷筋の奥詰めの集落です。集落のかかりにて、右側に短い旧道が分かれます。その旧道が現道に合流するところの右側に庚申塔が並んでいます。ここはカーブの内側で、見落としやすいかもしれません。

 右のほうには数基の文字塔が並んでいます。

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 左寄りには2基の刻像塔。

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 左の塔からよく見てみましょう。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、ショケラ

 金剛さんのお顔の傷みと、猿・鶏の風化が惜しまれますが、その他は比較的良好な状態です。童子の、手を袖の中に隠すようにして前に合わせているポーズに注目してみてください。なかなか堂々としているではありませんか。大きめのショケラ、金剛さんの衣紋もよろしく、秀作といえましょう。

 次に、右の塔を見てみます。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、ショケラ

 金剛さんの風貌が、最初に紹介した屋敷ノ原の庚申塔に似ていませんか。あれよりはすらりとしていますが、もしかしたら同じ石工さんによるものなのかもしれません。ショケラが合掌しているように見えます。風変わりな表現です。また、向かって左側の童子の威張っていることといったら、右の塔の童子とは大違いです!一つ下の面では、猿・鶏・猿・鶏・猿と、一列にて交互に刻んであるのもおもしろいではありませんか。かつては非常に細かい彫の美麗な塔であったと推察されます。傷みが進んでいるのが残念です。

 

 以上、本匠村大字小川のうち屋敷ノ原、苣ノ木、番ノ原、岩屋の庚申塔を紹介いたしました。それぞれに個性的な塔でうれしかったのですが、それ以上に感激したのは、ほとんどの場所にてシャカキがお供えされていたり、すぐそばに南天が植えられていたりと、今なお信仰されているように見えたことです。お墓の入口や道路沿いでみなさんの目につく場所ですから、通りがかりにお参りをされる方が多いのではないでしょうか。

 それぞれの集落にて複数の塔がまとまって建っています。これはきっと、集落ごとに1か所ずつに集めたのでしょうか、人目につかない場所にて忘れられてしまうより、このように道路沿いなどに移動するのは意義のあることです。

 このあたりは交通量が少ないので、田舎道でスピードを出す人がいます。銚子渓谷や岩屋の千本桜等の名所旧跡を訪れる方も通る道です。おじいさんおばあさんが道路を渡っているかもしれませんので、ゆっくり通っていただきたいと思います。庚申様にも交通安全を見守っていただき、事故のないようにしたいものです。