大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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富来路の庚申塔巡り(国東町)

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数回にわけて、富来路の庚申塔をさがしました。まだまだ抜けはありますが、ひとまず今まで廻った分を紹介いたします。富来浦から文珠山方面へ、富来路を辿っていきます。

 

(1)池田

 富来浦から県道659号(以下、県道と表記します)を文珠方面に進みます。富来神社を右に見てすぐ先を左折、農道を行き橋を渡った先の右手崖中腹に3基の庚申塔が並んでいます(冒頭の写真)。左の塔から順に見てみましょう。

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左)青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 台座を2段重ねにして立派に祀られています。残念ながら碑面の荒れが目立ち、特に下半分はその傾向が顕著です。この塔は主尊の両脇に童子を配置するのではなく、上下に分かれています。下段に配された童子は摩滅が目立ち、さらに下に位置する猿と鶏は、ほとんどその姿が消えかかっていました。ガニ股でどっしりとした立ち姿の金剛さんも、どことなく寂しそうです。

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中)青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 左の塔より、いくぶん良好な状態です。ギョロリと眼玉をむいた金剛さんのいかめしいことといったら、痩せ型の体型も何のその、いかにも強そうな感じがするではありませんか。こちらも、童子は下の方に配置されております。その童子が、袖を打ち合わせるようにして神妙な表情で付き添っているのも、いかにも金剛さんに畏怖を抱いているように感じます。猿や鶏も、写真が悪いだけで実際にはもう少しはっきりわかります。

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右)青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏

 右の塔は、この3基の中では最も劣化が進んでおります。笠を持たず、左・中にくらべるとややこぶりではありますが、よく見るとレリーフ上に縁取りをした中に諸像を丁寧に刻んだ、彫りの細かい塔であったことが推察されます。

 今はあまりお参りをする人がいないのか、塔の周りはやや荒れ気味で草が伸びていました。きっと、道路より高いところにあるものですから手入れがしにくいのでしょう。塔のそばにはツワがたくさん生えていました。ツワは、秋になると黄色のかわいい花をつけます。それを庚申様への香華と見て、ありがたくお参りをさせていただきました。

 

(2)甲良(こうら)

 池田の庚申塔から県道に返り、さらに文珠方面に行くとオレンジロードと交叉します。その辻を左折しまして、橋を渡った先の左手にお墓があります。その横に1基の庚申塔があります。

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 庚申様のほかにも五輪塔(いぐりんさん)や、お地蔵様等がいくつも寄せられています。おそらく道路工事か圃場整備の際にこちらに集められたものでありましょう。

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青面金剛4臂、2童子、1猿、1鶏、邪鬼

 全体的にすっきりとした印象の塔で、保存状態が良好です。入母屋型の立派な笠の下を見てください。笠の付け根のところから碑面が徐々に薄くなっていくところ、ここが直線的なデザインになっていて、カッチリとした印象を受けます。この斜めのラインの分、金剛さんや邪鬼が厚肉彫りになっております。肥満体系の金剛さんに踏みつけられた邪鬼の辛そうな表情は、お気の毒ではありますが愛嬌すら感じられました。合掌する童子の脚の短さや、その間に申し訳程度に刻まれた鶏と猿の小ささもかわいらしいではありませんか。なかなかの秀作だと思います。

 

(3)保久祖(ほくそ)

 甲良の庚申塔からオレンジロードを引き返し、県道との交叉点を過ぎ、大恩寺小学校の裏手あたりまで進みます。右にお墓を見て少し先に、右上に上がる急坂の里道があります。これを上がりますが、この先道が壊れて車は上がれません。邪魔にならないところにとめて、歩いてお参りをしてください。

 里道を少し上がり、右側に元は畑か水田であったと思われる平地が段々になっています。上段の平地に上がり、山裾に沿うて進むと左側に壊れた石段が見えてきます。しばらく進んでも石段が見えない場合は、平地への上り口が間違っていますので戻ってください。

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 この石段を上がります。上の方に庚申塔が見えています。落ち葉や枯れ枝に埋もれているうえに上から下まであちこちが壊れていますので、気を付けて通ってください。

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 石段を上がりついたところには、たくさんの庚申塔や庚申石、壊れた宝塔?が散財しています。この荒れ様から、すっかり信仰が絶えてしまっているのではないかと思われます。

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 刻像塔の左側にも、このように庚申塔・庚申石がばらばらに倒れています。左奥はおそらく塔でありましょうが、倒伏しているために文字塔か刻像塔かの判別もできませんでした。

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 こちらは仰向けに倒れてしまっています。文字塔であったのではないかとも思ったのですが、上部に日月が確認できることから、すっかり摩滅してしまった刻像塔なのかもしれません。その手前の下向きに倒れている塔は刻像塔なのですが、上手に写真を撮ることができませんでした。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏

 こちらの塔のみ、保存状態が非常に良好です。おそらく、この塔が特別に立派なものであるので、基部をきちんとしていたために倒伏を免れたのが要因でしょう。帽子をかぶったように見える金剛さんは、まるで引き眉毛をしたような眉尻で、鼻筋の通ったなかなかの美男子です。どんぐりまなこに愛嬌があって、まったく怖そうな感じがしません。短足の爪先を180度外向きに開いて立つ表現などデザインの稚拙さは否めませんが、諸像を碑面いっぱいに配置したなかなかの力作です。お地蔵様のような童子がかわいらしく、狭い部屋にぎゅっと身を寄せ合う猿もまたしかり。ところが鶏の彫りはずいぶん本格派で、殊に雄鶏の尾羽の立派な表現が見事です。

 このような場所の庚申塔はできれば里に下ろして、通りがかりのみなさんに手を合わせていただけるような場所にてお祀りするのが望ましいと思うのですが、この場所のように倒伏した塔がいくつもあり、さらに庚申石も見られるような場合、果たしてこれらを全部里に下ろすのかといった問題も生じてくることに気付きました。保存状態のよい1基のみ動かしてほかをここに打ち棄てるようなことになれば本末転倒のような気もします。一筋縄ではいかない問題です。

 

(4)宮法師(みやぼし)

 保久祖庚申塔からオレンジロードを県道まで戻ります。右折し、県道を文殊方面に進み小さな橋を渡ってすぐの左側に塚あります。ここは通称「おやしろさま」と申しまして、小さな五輪塔庚申塔があります。昔は、この塚に沿うて回り込むように川原に下り、とんとん橋にて渉っていたようです。

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 境内には2基の庚申塔があるようですが、文字塔の方は見落としてしまいました。刻像塔のみ紹介します。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏

 笠が非常に立派です。装飾やなめらかな曲線、どれをとっても素晴らしいと思います。一方で、碑面の風化摩滅は深刻です。もともと扁平な彫りだったのでしょうが、金剛さんの表情や衣紋、猿や鶏の様子など、細かいところが全くわからなくなり、まるで影絵のようになってしまっています。旧道脇にて賽ノ神的な霊験を期待したものなのでしょうが、道行く人の道中の安全も守ってくださった庚申様。長い年月を風雨に絶え、今なお県道の交通安全を見守ってくださる姿に、頭の下がる思いでございました。

 

(5)藁蓑 山神社裏

 県道を道なりに行くと、右側に山神社の鳥居があります。田んぼの間の参道を通って、境内に入ります。お参りをしたら、拝殿右側から裏手にまわってください。立派な庚申塔が1基、ひっそりと立っています。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏、邪鬼

 自然石の形をうまく生かした、非常に立派な塔です。金剛さんのお顔は、ちょっととぼけたような、優しそうな表情です。でも、踏んづけられた邪鬼は嫌そうな顔をしています!その対比がおもしろいではありませんか。こちらの邪鬼は、甲良の庚申塔の邪鬼にくらべるとずいぶん不気味な感じがします。そんな邪鬼の存在などお構いなしに、すまし顔にて控えるお地蔵さんのような童子はスラリとした立ち姿で、殊に向かって右のお方(合掌してない方)の表情には「われ関せず」のような雰囲気が感じられませんか。そして猿と鶏の小さいことといったらどうでしょう。この大きさの対比が極端なのもおもしろく、思い切った配置ではありますが、これにより主尊をより大きく立派に見せることに成功しています。秀作です。

 

(6)藁蓑 稲荷社そば

 県道をさらに進みますと、今度は左手にお稲荷さんの鳥居があります。ここから参道を上がり、交叉する林道を左に少し行ったところに庚申塔が1基立っています。

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 この塔については以前、別記事で紹介しましたのでそちらを見てください。

藁蓑 お稲荷様の庚申塔と一字一石塔(国東町) - 大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

 

(7)夫婦石

 県道をさらに登っていき、右側に溜池を見て、少し行ったところが夫婦石の集落です。夫婦石バス停のすぐ横に、たくさんの石造物が寄せ集められています。おそらく道路工事等で移されたものでしょう。この中に庚申塔が1基あります。

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青面金剛4臂、2童子、3猿、2鶏
 全体に朱の名残がうっすらと感じられるほか、衣紋や鶏などところどころにははっきりと色が残っています。これは、待ち上げ等で部分々々に彩色したものでありましょう。全体的に彫りが細かく、立派な塔です。特にやさしいお顔の金剛さんが印象に残ります。ちょうど日が差して、やさしそうな金剛さんをやわらかく照らしていました。

 以上、富来路の庚申塔巡りとしてひとまず7か所の塔を紹介いたしました。同じ谷筋にあってもバリエーションが豊富で、個性豊かな塔がたくさんあります。場所のわからなかった塔、飛ばした塔も含めて、また富来路を訪ねたいと思っています。