大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

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朝来の名所めぐり その1(安岐町)

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 このシリーズでは安岐町は朝来地区の名所旧跡を紹介します。朝来地区は、安岐町の中では西武蔵地区と並ぶ山間部の地域で、大字矢川・朝来・明治からなります。この地域には神社・お寺や路傍の石造物など数多くの名所・文化財があり、とても1日ではまわりきれないほどです。今からその一部を順々に紹介していきます。探訪が不十分なので、飛び飛びの掲載になります。

 

1 仏野の観音堂

 安岐市街から県道34号を安岐ダム方面にまいります。右側に山神社の大銀杏を見て少し行き、仏野部落に入ってすぐ、県道沿い右側のやや高い位置に道路に面して仁王像が立っています(冒頭の写真)。観音堂に着きました。県道拡幅前は真っ直ぐ続いていたと思われる参道も、今では道路に削られて仁王像のすぐ下で直角に折れ曲がっています。車は、この少し手前、左側の路肩が少し広くなっているところの端ぎりぎりに寄せればどうにか1台は駐車できます。

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 地衣類の侵蝕が進みつつありますが、比較的良好な状態を保っています。むっちりとした頬、吊り上がったどんぐり眼、大きな耳と迫力満点のお顔で、体も筋骨隆々たる姿がよう表現されています。

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 厳しい顔で道路を見下ろす仁王像に、下の県道を運転しますといつも心が引き締まります。この辺りはカーブが多く、お年寄りが道路を渡っているかもしれませんので運転には特に気を付ける必要があります。

 堂様は施錠されておらず、自由にお参りができます。写真はありませんが、中にはお観音様、お地蔵様、お弘法様、十王様などたくさんの種類の仏様がコの字型にずらりと並んでいます。お参りをしたら左手の石造物群を見学いたしましょう。

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 五輪塔をはじめとする古い墓碑が2段に分かれて並んでいます。この場所は、今は堂様の体をなしていますけれども、昔はお寺があったのかもしれません。そうであれば、その関係の方々のお墓なのでしょう。この墓碑に沿うて左に行くと、庚申塔などの石造物がございます。少し進まないと見えにくいので、見逃がさないようにしてください。

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法華一字一石

 比較的大きな一字一石塔です。左の五輪塔と比較してみてください。

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 石祠がずいぶん傷んでいるものの、御幣があがっており信仰が続いていることが分かります。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏

 庚申塔はずいぶん傷みが進んでしまって、碑面の風化・剥離が著しい状態です。特に向かって左の童子は痕跡を残す程度にまで消えてしまって、主尊も輪郭を残す程度になっています。猿は左と中の2匹が右向き、右の1匹が左向きで、めいめいに体を丸区して頭を押さえてしゃがみこんでいるのがほんに可愛らしいではありませんか。鶏もごくささやかな表現で、写真では分からないと思いますが実物を注意深く拝見すると輪郭は残っています。

 

2 長瀬の観音堂

 仏野部落を後に、県道を安岐ダム方面に進みます。堰堤の手前、長い直線の上りにかかったら、右側の路側帯が広くなります。その長い路側帯の中ほど、民家の手前に堂様がございます。車はすぐそばに停めることができます。

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 堂様は道路よりも一段低いところに建っています。おそらく県道が改良工事で嵩上げされたので、このような立地になったのでしょう。斜面を適当に下ってお参りをしたが、建物の右側から裏手にまわります。

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 一段高いところの竹藪の中に、立派な庚申塔と石祠が並んでいました。ほかにも石造物があるのかもしれませんが、藪がひどくて確認できません。

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青面金剛6臂、2童子、3猿、2鶏

 こちらは『くにさき史談第9集』で写真を見て、探訪を楽しみにしていた塔です。想像していたよりも小さかったものの、その彫りのすばらしさや碑面いっぱいに諸像を配して余白を残さない豪勢さ、さらにほかには見られない個性的な表現(後述)に感激いたしました。

 まず主尊のお顔に目が釘付けになりました。非常にボリューム感のある炎髪はまるで灯籠鬢のように横に張り出して、真っ赤な彩色が施されていますので迫力満点でございます。立派な眉、くっきりとした小鼻、赤いおつばなど、二枚目の役者ごかしの雰囲気ではありませんか。衣紋のひだ、前で結んでたらした紐、複雑な配置の腕など非常に細かい彫りで丁寧に表現されています。しかも、腕にひっかけたひらひらを長い脚よりも下に垂らして、なかなか洒落ています。お芥子の童子はほんにかわいらしくて、袂のふっくらとしたところなど、ほんに優雅な風情がございます。左の童子が小首をちょいとかしげてにっこり笑うていますのも愛嬌があってよいと思います。

 そしてこの塔でもっとも個性的なのが、猿の表現です。なんと3匹の猿が四つん這いになって、夫々の背中に主尊と童子が立っているではありませんか。こんな猿をほかに見た覚えがありません。とてもおもしろくて、作者の遊び心が感じられます。めいめいの猿の下には何らかの文様が刻まれています。お花模様なのかなとも思いましたがよく分かりませんでした。鶏は最下部の中央に、仲睦まじく向かい合うています。何から何まで行き届いた秀作といえましょう。

 一点気になりましたのが、これ以上竹が生い茂ってきますと筍に突き上げられて、塔がかやってしまわないかということです。この立派な塔が、今後も永く残ってほしいと願うています。

 

3 山浦の庚申塔

 長瀬の観音堂から県道を引き返します。山神社の大銀杏のすぐ先を左折して、県道405号に入ります。道なりに上って、新道切通しの手前の二又を左折して旧道を辿りますと、右手に朝来隧道があります。このトンネルは明治末の竣工で、扁額に変体仮名で「あさくとんねる」と書かれています(母字は阿左久登(ん)留)。適当な写真がないので、またの機会に紹介します。トンネルへの分岐の手前、路肩が広くなっているところに車を停めます。

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 道路端の、この白いガードパイプが庚申塔への入口の目印になります。ここから法面の中段まで登ったら、直角に折れて急な石段を登り詰めたところに庚申塔が並んでいます。夏は藪になって登られませんので、冬に訪れるのがよいでしょう。

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 ずらりと並ぶ庚申塔のうち中央の1基が刻像塔です。あとは梵字の刻まれたものが1基、「庚申」云々の銘が残る塔が1基、残りは墨書で銘が書かれていたと思われますがすっかり消えてしまって、判読できませんでした。

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 梵字に明るくないので内容が分かりません。彫りは浅いものの太い線を刻んでいますので、くっきりと分かります。

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青面金剛6臂、3猿、2鶏

 この塔は安岐町にある刻像塔の中でも最も小型で、総高70cmほどしかありません。けれども主尊の存在感から、こうして写真で見ますと実物よりもずっと大きく見えます。駒形の塔身にかっちりとした縁取りをなして、碑面を上下の2区画に分かち、上段にはほとんど余白を残さずめいっぱいに主尊を配しています。大きな丸い頭、二重瞼の優しそうな目、むっちりとした頬など、個性的なお顔付の主尊には赤子のような愛らしさが感じられます。弓や戈、衣紋の紐の結び目などを細かい彫りで丁寧に表現していて感心しました。大きさだけでははかれない、立派な塔であるといえましょう。

 下段は苔に覆われていて、写真ではほとんど分からないと思います。上部の左右に鶏が、下部に猿が並んでいます。その猿が、中央は正面向き、左右は内向きにて、3匹が仲良う寄り添うているのがほんに可愛らしいのです。また、たまたま見学に訪れたのが夕方であったので、枝の掻い間から差し込んだ夕陽がちょうど宝珠を照らして、さても神秘的な雰囲気が感じられました。このこともあって、訪ねてから3年ほど経っておりますがはっきりと記憶に残っている庚申様です。

 

4 山浦の山神社

 朝来トンネルへの分岐を見送って、道なりに上っていくと道路右側に長い参道が分かれています。この神社にお参りをされる際には、ぜひ狛犬をじっくりと見学してみてください。

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 参道半ばの写真です。石段が斜めになっていて少し歩きにくく感じました。けれども緩みはないので、安心して通行できます。杉木立の中で花粉症の方は時季を選ぶ必要がありますが、ほんに気持ちのよい参道です。このように長い参道を登っていくと、次第に心が落ち着いてまいります。なお、先ほど申しました狛犬は、アップの写真を撮り忘れてしまいました。櫛の目状に、毛並みを丁寧に表現した秀作です。

 

今回は大字矢川を巡りました。矢川にはほかにもいろいろありますが適当な写真がないので、次回から大字朝来に移ります。