大分県の名所・旧跡・史跡のブログ

カテゴリから「索引」ページを開いてください。地域別にまとめています。

夷の名所・文化財 その5(香々地町)

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020612j:plain

 今回は、東夷の名所旧跡のうち塔ノ本の石造物と貴船様の庚申塔を紹介します。本当は上迫の庚申塔まで載せようかと思ったのですが、内容のバランスを考慮して今回は2か所のみにとどめました。
  

 16 塔ノ本の石造物

  字塔ノ本に、国東塔や庚申塔、五輪様(冒頭の写真です)などの石造文化財が残っています。こちらは、県道沿いの焼尾阿弥陀堂横からですと崖を下ることになり危険を伴いますので、今夷岩屋の近くから田んぼの横を通って下からお参りした方がよいでしょう。

 前回紹介しました今夷岩屋のすぐそばにかかっている橋を渡り、すぐ右折して農道を進みます。奥に国東塔が見えますので、すぐ分かると思います。車は坊中下山口にとめて、歩いて行きましょう。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020646j:plain

 国東塔です。請花・返花の揃うた造りで、スラリとした端正な姿でございます。保存状態が非常に良好です。こちらの塔は田んぼのすぐ側で、言うなれば生活空間と密接した存在であるわけですが、地域の方には昔から、ある種の畏怖をもって大切にされてきたことと思います。昔はよく「ぐりんさんに触ると腹がせく」などと言って、石塔の類には触れないようにと親から子に教えたものです。このような教えは、本来的には信心によるものであって決して即物的なものではありませんが、結果的に石の文化財の保護・保存にも一役買ってきたことでしょう。

 この塔の後ろには庚申塔が3基立っています。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210514010607j:plain

青面金剛6臂、2猿、2鶏

 所謂「異相」の塔で、これと同種のデザインの塔が香々地町国見町に集中して数基残っています。夷谷では、横岳や上迫、カンガ峠、白禿の庚申塔の仲間です。それらの中でも、こちらの塔が彫りの丁寧さ・保存状態のいずれも群を抜いて素晴らしく、石造美術としての観点からのみ見れば近隣在郷を代表する塔と言えましょう(民俗的な観点も考慮すれば等しく価値があります)。まず塔身の形がたいへん変わっています。向かって左上を打ち欠いたようにも見えますが、この部分を補うたところで左右対称にはなりません。上部のみ、自然石の元々の形を生かした可能性もあります。直線に段差をつけた下に日月を刻み、その下に五角形の枠をとって諸像を配しています。主尊のとても険しい表情はどうでしょう、にっこりと笑うた金剛さん、愛嬌のある金剛さんも数ある中に、こちらは何の容赦もないお顔でございます。線彫りにて光背が表現されているのも見逃せません。オメガの拝み手、さらに残りの4本の腕をX型に配しているのも珍しいデザインです。三叉戟には大きな蛇がぐるぐると巻き付いて、異様な雰囲気を醸し出しております。写真が悪くて見えにくいと思いますが、猿と鶏は対称性を崩していきいきと表現されています。特に三叉戟の根元に四つん這いになっている猿がかわいらしくて、主尊の恐ろしげな風貌とは対照的でございます。こちらは元禄16年、今から300年以上も前の塔でありますのに、この保存状態のよさは奇跡的といえましょう。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020705j:plain

猿田彦大神

 シンプルな文字塔でありますが、「猿田彦大神」の縁取りに注目してください。上部が卒塔婆のように尖って、下部は台座のように横に広がっています。この形を見て、すぐ越路の庚申塔を思い出しました(以前紹介していますので索引からご覧ください)。あれほど深い彫りではないものの、明らかに同じ発想のデザインです。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020708j:plain

青面金剛6臂、3猿

 こちらは風化と苔の侵蝕で、諸像の姿がぼんやりしてきているのが残念です。でもよく見ますと、細かい部分の彫りもそれなりに残っています。主尊のお顔の周りの火焔光背が立派で、西溝井(杵築市)の庚申塔を思い出しました。向かって左上が大きく欠けていますけれど、すんでのところで主尊にかかっておらず、これ幸いであります。


17 田ノ口の庚申塔

  今度は坊中下山口まで戻って、自動車で夷谷温泉方面に進みます。道なりに行きまして、夷谷温泉駐車場のかかりの路肩が広くなったところに車を置き、今きた道を歩いて戻ります。道路左側に、やぶに埋もれかけた鳥居が立っています。こちらが貴船様です。貴船様は水の神様で、農家の信仰は絶大でございました。殊に日照りが続きますと雨乞いの盆踊り等をした事例が方々に残っています。こちら田ノ口の貴船様も昔はお参りが多かったと思われますが、今は草に埋もれ、拝殿等も朽ちかけています。その境内に庚申塔が2基並んでいます。鳥居のところから荒れた参道を挙がり、平地についたら右奥方向に行ったところです。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020734j:plain

 このように大小2基の庚申塔が並んでおります。向かって左の塔から詳しく見てみましょう。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020737j:plain

青面金剛6臂、2猿、2鶏

 小さめの塔で、その碑面いっぱいに大きく表現した主尊の立ち姿がほんに立派でございます。堂々として、さても強そうな雰囲気ではありませんか。なにかを被ったような髪型、どんぐり眼などお顔周りが特に印象深うございまして、ほかに衣紋の下部の細やかな文様・ヒダの表現なども見事です。猿や鶏をことさらに小さく配しておりますのは、主尊をいよよ大きく見せるためでしょう。御幣を持った猿のかわいらしいこと。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020740j:plain

青面金剛?、3猿、1鶏

 こちらは主尊の傷みがひどく、像容がほとんどわからなくなっています。意図的に削り取られたのではないかと疑わざるを得ないほど不自然な傷みで、何があったのかとあれこれ考えてしまいました。下部の猿・鶏のみかろうじて残っていますので、その部分を拡大してみます。

f:id:tears_of_ruby_grapefruit:20210512020745j:plain

 3匹の猿は対称性を崩して自由に配しており、いきいきとしています。向かって右側では主尊の脚に取りすがるように四つん這いになっており、残りの2匹は中央よりやや左にてしゃがみこみ正面を向いています。鶏は向かって右下にその痕跡が認められますが、もしかしたらもう1羽、どこかに刻まれていたのかもしれません。

 この2基に関してはお世話が難しくなったか、または道路工事にかかったかで貴船様の境内に移されたものと思われますが、今では貴船様にお参りする方が減ってしまって、周囲がやや荒れ気味になっているのが気にかかります。

今回は以上です。どちらも道路から近く、簡単にお参り・見学ができます。殊に塔ノ本の庚申塔・国東塔は、夷谷に数ある石造文化財の中でも特に良好な状態を維持していますので、見学されてはいかがでしょうか。